トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告 3月
掲載日:2019.04.10
獣医学群獣医学類5年 梅原悠季
ウガンダ生活も5ヶ月半が経過しました。留学折り返し地点に立った今、ウガンダという言語も文化も全く異なる「非日常」の空間で自分とひたすら向き合う5カ月間であったと振り返っています。まだまだ実現できていないこと、考えが深め切れていないこともたくさんあり焦りも感じますが、ふと自分の中の変化・成長に気づく機会も多くなってきました。留学折り返しである今回の報告書で、この5カ月間の自分の変化についてもまとめておきたいと思います。
今回は、1.ウガンダの家畜マーケット 2.プロジェクト活動報告セミナー 3.ウガンダに5ヶ月住んでみて について書いています。
1.ウガンダの家畜マーケット
プロジェクトメインカウンターパートである、県庁獣医師Dr.Williamが牛を購入予定であるということで、毎週金曜日に開催されているMbararaの家畜マーケットについて行ってみました。家畜マーケットといえば家畜の健康状態や肉質などの品質、価格、販売方法など家畜のバリューチェーンの一端が垣間見える場所で非常に興味深い反面、現地の人々にとって大きなお金が動く場所でもあるため、外国人が購入するわけでもなく家畜をジロジロと眺めるのはあまり良く思われない可能性も想像でき、期待と緊張を抱えつつ向かいました。実はアフリカの屠畜場などでよく耳にする話として、本来であれば廃棄されるべき汚染肉(寄生虫や原虫、細菌などに感染した肉)が検査をすり抜けて市場に出回っているという話があります。この肉に対して廃棄するよう職員を説得するのは命がけに近い行為だというエピソードも多々聞きます。このような話を聞いていたため、写真撮影も隠し撮りになるかなと考えていたのです。
メインロード(と言っても舗装されていないガタガタ道)から脇道に入ってすぐ、マーケットに到着。山羊・羊が広い区画に集められていました。鳴き声と人の声にかなりの活気を感じることができました。山羊・羊コーナーは思ったよりも目立って状態の悪そうな動物は見当たりませんでしたが、大量のダニをつけている個体が多くウガンダでいかにダニが問題になっているかが伺えます。
山羊・羊コーナーを越えてさらに奥に進むと牛コーナーが開けていました。ホルスタイン牛・アンコレ牛・ゼブ牛、雄雌、仔牛から成牛まで幅広く展示されており、それぞれの牛を複数の売り子が担当して来客者に声をかけては値段交渉を行っていました。牛は健康状態が顕著に表れており、BCSの低い個体(痩せ細っている。一体この牛のどこに肉があるのか。)、下痢をしている個体、真菌にかかっている個体、そしてダニをものすごい数体にひっつけている個体などなど、日本基準で健康と判断できる牛の方が少ないという状況でした。写真右はウガンダ西部原産のアンコレ牛。大きい角が特徴的ですが、乳量はあまり出ないため(乳質が優れていると現地の人は皆言うが)食用又は種牛としての飼育が一般的です。たまにこの角のモニュメントがお土産屋さんで販売されているのを見かけます。聞いた話によると、屠畜の際角が保定の柵に引っかかり作業しやすいというのが巨大な角の利点なのだとか…。
それぞれのコーナーで動物を眺めていると、売り子さんたちが声をかけてきました。最初は値段交渉などをされましたが買う気がないことが分かると離れていくかと思いきや、そのまま話し続け動物たちの値段や年齢、彼らが何に困っているかなどたくさん話してくれました。彼らが最も問題視していること、それはやはりダニでした。ウガンダではダニ媒介性の感染症:東海岸熱(ECF)が流行しており、乳量や肉質に影響を与え大きな問題になっています。政府も新しい殺ダニ剤を導入したりしていますが、ダニがすぐに耐性をもってしまうため鼬ごっこが続いているようです。ワクチンを利用する農家さんも多いですが、効果がない、高い、危険という認識が強く手の打ちようがないと感じている人が非常に多く感じられます。
しかしながら実際の所、ダニが耐性を持たないように殺ダニ剤は成分毎にローテーションして使う、可能ならゼログレージングにするなど打つ手はあると感じています。その話を資料を見せながら説明したところ、どのくらいの頻度で殺ダニ剤を利用すればよいのか、なぜ耐性を持つようになるのか、など興味津々に質問してきてくれました。これだけ素直に私たちの話を新たな知識として聞いてくれるのであれば、まだまだ私でもお手伝いできることがあると感じることができたのが、今回の一番大きな収穫だった気がします。
警戒されるかと思い気持ち控えめに立っていましたが、その心配も一瞬で消え去る人々のフレンドリーさですぐに仲良くなることが出来ました。彼らから写真撮影をせがまれることが多かったので、ダメもとで持参したカメラが思いがけず活躍することとなりました。写真からも伝わるかと思いますがウガンダの人々は本当に穏やかで人懐こい、アフリカの中でも非常に暖かい性格で過ごしやすい国であると感じます。(写真左上)牛は大型トラックの荷台にぎゅうぎゅうに積まれて短距離から長距離を運ばれます。この状態で国境超えをすることもあるため、道路インフラの課題がよく見えてきます。炎天下の中あのものすごい密度による熱気と、立ちっぱなしという状況で一体生存率は何パーセントなのか気になるところです。
ダニ。体中至る所についていますが、特に草に触れる面積の多い顔や乳房、陰唇回りに多いイメージがあります。ダニは数日間かけて吸血し吸血前の何十倍のサイズにまで膨れ上がり(写真右)産卵します。元のサイズは平べったく小さいため毛の奥まで入り込むことが出来る厄介者です。
2.プロジェクト報告セミナー
今月頭はプロジェクトリーダーである蒔田浩平先生(獣医疫学教室教授)が現地訪問し、プロジェクトの進捗状況やこれまで調査してきた結果・普及結果などについて報告を行いました。このセミナーでは全プロジェクト協力農家さんに声をかけ、これまで調査してきた牛乳バリューチェーンやアンケート、女性グループワークショップなどの結果報告に加え、酪農ビジネスの講義(大学でビジネスを教えつつ実家でビジネスとして酪農を営む現地の方による講義)も行われ、参加した農家さん達からそれぞれのトピックで様々な議論が交わされ、会場にいた全員にとって非常に有意義な時間になったと感じています。
2回に渡る女性グループワークショップで出た女性達の意見やどのように問題を解決していけるか、男性だらけの中で発表したところかなり反応が良く、女性のコミュニティがもっと活発に作られるべき、尊重されるべきという意見をたくさんもらうことができました。今後このセミナーに参加してくれていた女性達を中心により活発化して行くべく、パートナーAliceと作戦会議中です。
今回セミナー会場としてお借りしたのは、協力農家さんのひとつ、ムバララ県内で最も近代的と言えるRubyerwa farm です。オーナーの息子さん(写真左)がカンパラの大学でFarm businessを教える先生でもあり、かなり熱の入った話を農家さんに向けてしてくれ私自身も心打たれるものがありました。
3.ウガンダに5ヶ月住んでみて
ウガンダ・ムバララに住み始めて5ヶ月が経過し、来たばかりの頃は見えなかった現地の様子、人々の暮らしなどが少しずつ見えてきたと同時に、自分の中でも様々な変化を感じ始めています。留学折り返し地点に立った今、振り返りとしていくつか記したいと思います。
ウガンダ最大の魅力;人
ウガンダでの生活に慣れるためにまずしたことは、街を練り歩いて居心地の良い場所を探す、友達を作る、現地語を覚えることでした。街を歩けば誰かが声をかけてくれ、何かしらの現地語を教えてくれ、どこに何があるか教えてくれ、さらに友達を紹介してくれる、この国の人々がいかにフィジカルでの人との繋がりを大切にしているかがひしひしと伝わります。とは言っても、初めての異国ウガンダという地で、最初から現地の人々とフレンドリーに接することができていた訳ではありませんでした。始め3カ月は自分の乏しい英語力とアフリカという土地に対する不安・恐怖心が大きく、街を歩いても人を避け、Hey Chinese!という絡みにもしんどさを感じていたと思い出します。
しかしそんな不安も日を重ねる毎に自然と楽しみに変わってゆき、街で目の合った人に自然と現地語で挨拶をするようになっている自分やローカル食堂で話しかけてきたお客さんと長話するようになっている自分、全力のハグで友人達との再会を心から喜んでいる自分がいることに気づくようになりました。気づけばウガンダを心から大好きになっており、現地訛りの英語も癖のある仕草も思考も、ウガンダ人に近づいてきたなと感じています。特に英語力にコンプレックスを感じていた私ですが、英語力が伸びたという実感は少ないもののウガンダ力は格段に上がったと自信を持って言えます。そしてウガンダを心から愛する私だからこそ、この国の最大の魅力である人の暖かさを、私を訪問してくれる全ての人たちに伝えることができると確信しています。
自分ととことん向き合う
ウガンダに来てまず最も時間を割いたのは、自分と向き合うことでした。意図的に時間を作ったというよりは自然と向き合わざるを得ない環境であったという方が正しいかもしれません。日本の生活からかけ離れた非日常の空間で生活していると、なぜこの人たちはこういう行動・発言をするのだろう、どのような社会的背景がそうさせているのだろう、私はなぜこの行動に違和感を感じるのだろう、私とこの国の人々の違いとは何だろう、それ以前に私は一体何者なんだろう?ということをぐるぐる考えてしまいます。さらに活動が本格的に始まった頃、農家さんが訴えてくる問題や、乳房炎の治らない牛をどうすればよいか、BCSを上げるにはどうすればよいかなどという質問に対して自信のない返答しかできず、鶏の解剖なども現地の学生の方がずっと慣れており、獣医学部5年生といえども知識と技術はまだまだ使い物にならないということを痛切に感じ、私は一体この国の人々のために何ができるのか?留学で何を成し遂げられるのか?という問いを毎日自分に問うては答えが見つからず落ち込んでいました。
そんな自分に自信をもてない私の気持ちを軽くしてくれたのは、やはり現地の人々の暖かさでした。申し訳なさそうに農家さんと話す私にお構いなく、私を見つけるや否やMost welcome!ときつくハグして何度も名前を呼んでくれるニャボ(お姉さん)や、痛いくらいに握手してくれるセボ(お兄さん)の笑顔、歓迎してくれる雰囲気に、何ができるわけでもないかもしれない、でも私はここにいていいんだなという安心感を与えられ、焦りで余裕のなかった気持ちも少しずつポランポラン(ゆっくりゆっくり)になっていきました。今、何ができるかという問いに対する明確な答えが見つかったわけではありませんが、焦りや見つからなかったらどうしようという不安から解放され、純粋に心からウガンダという地を楽しみつつ留学生活を送ることができています。5ヶ月半を振り返ってみて、留学を決断してよかった、留学先がウガンダでよかったと心から思えています。