第15回酪農学園大学公開講座における講演内容への質問に回答します。
掲載日:2020.11.27
2020年11月14日(土)に開催いたしました第15回酪農学園大学公開講座「発酵食品の魅力」にて寄せられた質問について本学教員が回答いたしました。
【質問1】ヨーロッパでは殺菌していない乳を使うというお話でしたが、大腸菌・乳房炎菌の影響はないのでしょうか。
(回 答)影響が全くないとは言えないのは確かです。影響としてはチーズの製造および品質と人の健康の二つがあり、特に気を付けなればならないのは健康被害かと思います。欧米では、無殺菌乳で作るチーズに関しては長年の経験と知恵で悪い影響を排除していると思われます。乳房炎についてはウシの管理と観察を徹底することしかありません。
使う生乳の検査をどれくらい行っているかも大事かと思います。食中毒に関与する細菌類の多くは、チーズを作るための乳酸菌がしっかり働いていれば(酸性度が上がれば)、3か月程度の熟成期間で、たとえ製造時に存在していても、死滅していくと言われており、無殺菌チーズでの衛生性確保の一つの根拠としているようです。逆にいうと熟成期間を置かないフレッシュチーズは無殺菌乳だと気を付けなればなりません。
日本のチーズは原則、殺菌乳からの製造ですから、きちんと製造管理がなされていれば、大きな問題はないはずです。
回答者:農食環境学群 食と健康学類 教授 竹田 保之
【質問2】チーズが原因の食中毒としてはどのような事例がありますか。
(回 答)欧米の無殺菌乳を使用するチーズにおいて、リステリア菌による食中毒が報告されているようです。
この菌は加熱処理には弱いことから、日本のように原則、殺菌乳からのチーズ製造では、きちんと製造管理がなされていれば、大きな問題はないはずですが、2001年に北海道で起きたナチュラルチーズによる食中毒はリステリア菌による可能性が高いことが後に報告されています(ただし、正式なリステリア菌による食中毒としての統計には入っていないようです)。
リステリア菌は家畜だけでなく土壌、地下水など広く環境に存在しており、乳だけでなく、畜肉製品や野菜などによる食中毒が報告されているようです。30年くらい前に輸入チーズよりリステリア菌が確認されて以来、リステリア菌はチーズにおけるもっとも重要な食中毒菌の一つとして衛生的な製造環境の維持と温度管理をしっかり行うようにとの通達がなされています。
回答者:農食環境学群 食と健康学類 教授 竹田 保之
【質問3】自宅でチーズを作る場合どのような点に留意したらよいのか教えていただきたいです。
(回 答)自宅でとなると酸凝固タイプのフレッシュチーズになるかと思います。使う牛乳や生クリームはできる限り新鮮なものが良いと思います。封を開けていないものであれば、レモン果汁などを混合して、素早く濾して、素早く食べることを心がけてください。味や食感などは生クリームの量で変化をつけられるでしょう。また、市販のスキムミルクを溶かして乳固形分を増加させるとどっしりとした食感になるかと思います。凝固した後に焦げない程度に加熱してよく混ぜると滑らかな食感になるかと思いますし、殺菌にもなります。塩味が強くならない程度に食塩を加えると、味が落ち着くかと思います。乳が凝固するくらいの酸性だと保存性は高いのですが、やはり冷えたら冷蔵庫で保存してください(それでも早く食べることをお勧めします)。どうしても乳清(ホエイ)が分離するでしょうが、よく混ぜて一緒に食べて問題はありません。ただし、カビが生えたらあきらめてください。
回答者:農食環境学群 食と健康学類 教授 竹田 保之
【質問4】 自宅で糀甘酒を作っていますが、火入れをしないで冷蔵保存しても2日目にはピリッとした味に変化します。どうしてでしょうか。
(回 答)麹の中には酵母が混入してきていますので,麹の働きで生成したブドウ糖を原料にアルコールや酢酸などの二次代謝物が産生されている可能性があるかもしれません。
回答者:農食環境学群 食と健康学類 教授 山口 昭弘
皆様のご参考になれば幸いです。今後とも本学の公開講座を何卒よろしくお願いいたします。