フィンドレー大学ベケット奨学生報告書:3月
掲載日:2020.04.22
獣医学類2年 砂﨑香恋
今年の冬は例年に比べて暖かかったとフィンドレー市に長年住む人々が口々に言っていたとおり、想像していたほど気温が下がることなく、穏やかな冬の期間を過ごすことができました。3月の中旬には春の訪れを感じさせる涼しげな心地よい風が吹くようになり、雪がちらついていた間は寂しげだった家の周辺では赤、青、橙色、黄色などの鮮やかな色をした鳥たちがよく見られるようになりました。早朝から声高らかなさえずりが聞こえます。3月の報告書では月初めに行われたイベントのこと、春休み中の思い出の振り返り、そして春休み後の授業の進み方について紹介したいと思います。
まず、3月1日には先月の報告書でも紹介したファンデー・サンデー(Funday Sunday)というイベントに参加しました。今月のイベントのテーマは“Wild, Wacky WEATHER!”でした。今回もマッザ・ミュージアム(Mazza Museum)という建物でイベントが行われ、建物内は辺り一面「天気」に関連する飾り付けが施されていました。先月は“Wild Safari”がテーマだったため皆サファリ帽子を被って活動していましたが、今回は天気に関するものということで小さな傘がついた帽子を被ってブースでお手伝いをしました。今回私は日本人留学生チームとしてブースでお手伝いをさせてもらいました。もともと参加する予定ではなかったのですが、他の日本人留学生の友達に当日誘われたので急遽準備をして飛び入り参加しました。小さい子供たちが楽しそうにクラフトをしている様子を見ていると、とても穏やかな気持ちになりました。訪れた子どもたちに楽しんでもらえましたし、私も子どもたちと一緒にお話をして楽しめたので参加して良かったと心から思いました。
次の日から春休みの旅行としてグランドキャニオン、アンテロープキャニオン、ホースシューベンドなどを始め、西海岸に位置する様々な場所を訪れました。いつかは必ず行きたいと思っていた地に足を運ぶことができたので忘れられない旅となりました。
アンテロープキャニオンはアッパーとロウワーという二つの区域に分かれており、今回の旅行ではロウワーアンテロープキャニオンを訪れました。はじめは急勾配の長い階段を下って行って冒険家のような気分を楽しんでいましたが、その後は人が一人通れるかどうかの狭く入り組んだ迷路のような道や、大きく歪んだ空間の中をガイドさんに必死について進みました。やっと広い場所にぬけると、周りをゆっくりと見渡せました。岩肌を強い水流が流れ込んだことで描かれたという幻想的な曲線が美しかったです。太陽の差し込み方によって色合いが変化し、場所によっては淡いピンク色だったり、眩しいオレンジ色になったりととても神秘的でした。ただ見渡すだけでなく、実際に岩壁に触れてみると見た目と異なり表面はつるつるしていて硬かったです。もう少し土っぽくて柔らかいのかと思っていたので驚きました。ガイドをしてくださった方は親切なナバホ族の方で、周辺に生息している動物のことや、アンテロープキャニオンの歴史について気になっていることを質問するとその場ですぐに教えてもらえました。景色を楽しむだけでなく、様々なことを学びながら探検できました。アッパーアンテロープキャニオンもいつの日か訪れてみたいです。
グランドキャニオンとホースシューベンドはどちらも高所から壮大な景色を眺めました。私は以前から絶壁は少し怖いと感じていましたが、あまりの美しい景色に見惚れてしまい、すっかり恐怖心を持つことを忘れていました。時間の許す限り、辺りを歩いて回ったり、写真を撮ったり、雄大な景色を眺めたりして時間を過ごしました。グランドキャニオンのミルフィーユ状になった地層の断面は長年の歴史を物語っており、初めて見たときには言葉ではうまく言い表せないほど感動に包まれました。ホースシューベンドでも青空の下の美しい景色を堪能できました。谷底に飛び交う白い鳥たちがゴマ粒のように見えるほどスケールが大きかったです。ホースシューという名の通り、形は馬の蹄のように見えました。馬のハンドリングの授業で蹄を間近で見る機会がたくさんあったので、そのことを思い出しながら景色を楽しむことができました。体と心で大自然を感じることができ、充実した旅となってよかったです。
グランドキャニオンのツアーが終わった次の日には南の地方へと移動し、大叔母さんと大叔父さんに会いに行きました。初めて会った大叔母さんと大叔父さんはとても優しく、不思議と懐かしい気持ちになりました。幼い頃からアメリカに大叔母さんたちが住んでいることを聞いていたからかもしれませんが、一緒に過ごしていてとても心地よかったです。まさか留学中に会えると思っていなかったので二人に会えて本当に嬉しかったです。
大叔母さんは庭いじりが好きだとのことで、私も晴れた日に付き添ってお庭をまわって咲き始めた花を観賞しました。二人で庭の花を見渡しながら話をした際に大叔母さんから動物にまつわる興味深いエピソードを幾つか教えてもらいました。中でも、オポッサムという動物が昔はよく庭を訪れていたという話が面白かったです。ある時、庭の木にぶら下がっていたオポッサムを追い払おうと大叔母さんが近づいて驚かすと、そのオポッサムが突然木から落ちて死んだフリをしたのだそうです。この動物の習性は本で得た知識でしか知らなかったので、まさか大叔母さんからこの話を聞けるとは思いませんでした。馬のハンドリングの授業でオポッサムから馬に感染してしまう病気があるという話をクラスメートとしたことを思い出しました。また、不思議な防御態勢を取る動物として、前期のアニマルハンドリングの授業で扱ったアルパカのことを思い出しました。私が注射器を持って近づいた瞬間に地面にぺたんと座り込んで逃げようとしていた様子が思い出されました。大叔母さんと大叔父さんのもとで楽しいひとときを過ごすことができて本当にありがたかったです。
大叔母さんたちと別れたあと、3月7日と8日はカリフォルニア大学デービス校獣医学部(UC Davis School of Veterinary Medicine)の野生動物・エキゾチック動物シンポジウム(2020 Wildlife and Exotic Animal Symposium)に参加しました。2日間に渡るシンポジウムでは朝8時から夕方16時、17時まで野生動物もしくはエキゾチック動物に関わる獣医師からのお話を聞くことができました。私は野生動物やエキゾチック動物の医療や研究に関心があるので、この機会は非常に貴重なものとなりました。シンポジウムで私が一番印象に残った話は、ティラピアの皮を利用した野生動物の火傷の治療方法やその後の研究です。以前個人的な関心があってインターネットで調べたことがあったのですが、まさか考案者・施術者から直接お話を聞けるとは思わなかったのでとても感激しました。他にも海獣医師や昆虫の獣医師など、幅広い分野の獣医師からお話を聞くことができ、今まで知らなかった新たな知識を得ることができたとともに、わからないことやまだ習っていない内容を更に深く学びたいという今後の大きなモチベーションになりました。他の州の獣医大学から参加している獣医学生やデービス校の生物学を専攻している学生たちと交流することができました。講義内容だけでなく、その場にいた人たちと共通の話題で大いに盛り上がることができて楽しかったです。はじめは一人で知らない地へ乗り込んでいくのは怖いと感じていましたが、これほど多くの収穫を得られるとは思っていなかったので勇気を出して参加して心から良かったと思いました。成長できる機会に恵まれてありがたいと感じました。
一週間ほどの春休み旅行から帰ってくるとすぐにもとの学校生活に戻りました。課題に追われる日々から一時的に開放されたので、帰ってきてからの多くの課題や中間試験の予告に対してすぐに気持ちを切り替えることができました。シンポジウムで学んだことを糧に学びに対する姿勢を改め、モチベーションが高い状態で授業に臨みました。課題を順調に進めることができ、留学を始めてから目標として掲げていた事柄を少しずつこなせていると実感し始めていました。しかしそんな矢先、フィンドレー大学では春休みが明けて一週間も経たないうちにオハイオ州の規定に則って新型コロナウイルスの流行に対する措置が取られました。3月16日からすべての授業をオンライン授業に移行するとの声明が出され、突然の出来事に戸惑うばかりでした。
馬のハンドリングの授業では農場での実習がなくなり、馬と触れ合う機会が突如として失われてしまったことが残念でなりませんでした。それでも、私達がオンラインの講義を楽しめるようにとの先生方の様々な工夫のおかげでオンライン授業でも変わらず勉強に励むことができました。緊急事態で人手不足になってしまった中で一生懸命に動画を撮影してもらっているのだと言うことを忘れずに必死に勉強しました。その他の授業についても先生方の最大限の工夫によって混乱は最小限に抑えられ、私達は不自由なく勉強できる機会を確保してもらえました。はじめは多くの変化を一度に受け入れられるのかと不安に思っていましたが、徐々に新しい授業形態や勉強の取り組み方に慣れていきました。
このようにして家で過ごす日々が続いていましたが、私は急遽3月の末に帰国することが決まりました。親しくしてくれた周りの人たちや、支えてくれた友達、そして先生方に十分に挨拶ができないままでの帰国はとても辛かったのですが、最後までやるべきことに集中して残りの時間を大切に過ごすことができたので大きな悔いは残りませんでした。残念な留学の終え方となりましたが、私自身の中で大きく成長できた半年間だったと感じています。フィンドレー大学や地域の人たちとの出会いによって今後もたくましく、明るく過ごしていけそうです。