アルバータ大学夏季研修プログラム 英語研修コース

掲載日:2019.10.28

アルバータでの研修を通して

獣医学群 獣医学類3年 下岡 誠

私は今回、北海道アルバータ酪農科学技術交流協会の奨学金を頂いて、8月29日から9月21日までの25日間カナダに滞在させていただいた。奨学金の存在は、留学を現実のものへと近づけてくれた。さらに品川さん、柿﨑さんを初めとする国際交流課の方々には大変お世話になった。この場を借りて改めて御礼申し上げたい。さて、私の本留学における目的は、「英語力の向上と、異文化理解の重要性を知りこれまでの視野を広げ、積極性を身につける」ことであった。プログラムの概要を以下に記させていただく。平日の朝8時半から12時半まではUniversity of Alberta(以下U of A)、Faculty of Extension の一部であるEnglish Language School(以下ELS)で英語を勉強した。午後からはアクティビティに参加した。それにはELSのStudent Engagement Centre(以下SEC)により語学力向上を目的として、ELSの全学生が任意に参加できるものと、コーディネーターによって私たちのために企画された特定のものの2種があった。後者の一部として、9月13日から15日にかけて2泊3日で他の日本人学生とともに、カナディアンロッキー山脈観光の中心地Banffを訪れるという素晴らしい企画があった。

初めにELSのクラスに関して紹介する。語学学校はU of Aのメインキャンパスとは別のダウンタウンキャンパスにあり、英語を母国語としない学生が通っていた。20人程度のクラスになり、そこではグループ形式で座った。多くの場面で自由に発言が許されており、わからないことがあればその場で解決することが推奨されていた。これまでの日本の英語の授業では先生が一方的に説明し、生徒は先生の発言を正しいものとみなし覚えることがメインだった。しかしELSでは、覚えるというよりは英語を使い課題を“解決”することに力点が置かれていた。その過程で、先生が話している時でも先生の意見に疑問があれば挙手して質問し、解決することができる。

グループでは多くのディスカッションを行った。およそメキシコ人が半分、日本人が半分、ドイツ人が一人というクラス内訳だった。私は日本にいる時よりも積極的に参加するように努めた。また周りの留学生がとても積極的に取り組んでいたので、それに感化され私も日本にいる時よりも積極的に参加できた。しかし、多くのディスカッションでメキシカンの学生が進行役を担うことが多く、自分の中にもどかしさもあった。ディスカッションの内容を掴むまでに時間がかかってしまい、自分から話を切り出すことが難しかったのだ。この経験は私に2つの課題があったことを示唆している。1つ目は完璧主義を無くし、積極的になることである。まだ理解できていないから発言できないではなく、わからなければ聞かなければならない。ただ日本人の私にとって、わからないことは何でも聞くということは難しかった。しかし一緒にグループを組んだ中に、メキシコで英語の先生をやっており今回のプログラムに参加されていたVeronica(写真①)がいたのだが、「どうして生徒が“Perfect”にできるの?そんなこと言ったら萎縮してしまう。」と言っていた。さらに私たちを担当してくれた教授, Nicole (写真⑨)も終始、「このクラスではミスをすることが許されているのだ。積極的に発言しなさい。」とおっしゃっていた。カナダやメキシコでは、学生は間違って当然であるという考えがあり、それに伴い学生は積極的に行動し、多くの質問もする。ドイツ出身のTobias(写真①)も先生の説明でわからないことがあれば、「今の説明はこれで正しいか。」と先生にその都度確かめるほど意欲的であった。私は今回、最後まで、完璧主義を払拭することはなかなか難しかったが、この考え方を日本でも実践したいと思った。例えば、私を含め多くの日本人学生は講義で分からないことがあっても質問することをためらった経験があると考える。しかし、わからないことをそのままにして勉強を続けても非効率的である。日本では講義中や講義後に質問することはマイノリティとみなされるかもしれないが、実際にカナダで体験したからこそ、私は学生という身分だからこそ、積極的に質問するようにしていきたいと思う。学生のうちはある程度の範囲まではミスが許されるのだから、自分で限界を決めず、あらゆることにどんどん意欲的にトライしていきたいと思う。

2つ目は英語力の向上である。英語力が向上すれば必然的にリフレクションも早くなるはずである。私は3年になってから本格的に英語の勉強を再開したが、授業のレベルについていくのがやっとで、内容の理解が伴わないこともあった。しかし、これもカナダで学んだことであるが、ELSでSECのアクティビティを担当されているJaynenは「今壁に当たっているのならそれはトライしている証拠だからそのまま続けるべきだ。」と言っていた。私の英語力は目標とするところまではまだまだ遠いが、諦めずに努力し続けたいと思う。この先、日本に帰っても毎日英語に触れ、勉強し続けたい。

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写真① 授業後、班メンバーで記念撮影。
このメンバーで多くのグループ活動を
共にした。左から順に千葉大学の田中さん、
メキシコ出身のVeronica、ドイツ出身の
Tobias、筆者。第1回目の授業を除いて、
全てグループで座り授業中に多くの会話や
グループ活動を行った。

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写真② クラスルームにて。
写真右はメキシコ出身のGio。
とても親しく接してくれ、
最終日には思い出を残すために
一緒に動画作成を行った。

次にホームステイに関して述べさせていただく。ホストファザーのDalipはフィジィーアイランド、ホストマザーのAidaはフィリピン出身という、カナダの“multiculturalism”を象徴するようなご家庭にお世話になった。ホストファザーは会うと必ず「Hello, how are you?」と声をかけてくれたり、時にはジョークを言ってくれたりして場を和ませてくれる気さくな方であった。ホストマザーは毎食おいしいフィリピンスタイルの食事を作ってくれ、様々な会話にも応じてくれた。例えば、私が授業で先生の英語が早くてなかなか聞き取れないと相談した時は、「ちゃんと先生にもう少しゆっくり話してって言わないと。」と親身に考えてくれた。ホストブラザーのJaynenは、日本文化やアニメにも興味があり、とても心が広い方だった。一緒に映画を見たり、宿題のわからない部分を聞いたりしながら交流した。ホームステイの経験によりカナダの文化に関する理解も深めることもできた。カナダの家族は日本の家族よりもそれぞれ独立しているなと感じた。それぞれに趣味があり各自の時間を大切にしていた。さらに、終始ホストファミリーの親切心には脱帽した。クラスの宿題の一環でホームステイファミリーへのインタビューがあったので、なぜエドモントンの人々はこんなにも親切なのかと聞いてみた。そうするとホストファザーが“Small Town Mentality”という、困っている人を無視できない精神を持っているからだと教えてくれた。さらに多様な人々が新しい文化を持ってくることも要因の一つだという。このようなホームステイを通じて新しい見識を手に入れることができたのもホームステイの魅力の一つであった。私を家族のように迎え入れてくれ、非常に快適な暮らしを提供していただいた、ホストファミリーに非常に感謝している。

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写真③ 9月8日に私のクラスでのプレゼンテーション用に撮った
ホストファミリーとの集合写真。左から順に、筆者、同じくホームステイをしていた
城西国際大学2年鈴木さん、ホストファザーのDalip、ホストマザーのAida、
ホストブラザーのJaynenとペットのSharu、同大学1年の瀧さん。

加えて、以下に時系列に沿ってハイライト的な写真を添付し、紹介する。

“アクティビティ”の一環として、9月9日にはアルバータ大学付属農場にあるThe Dairy Research Centreを訪問した。9月11日には州最大級で、設備の充実に加え24時間週7日の体制のチーム獣医療を展開している馬の動物病院、Delaney Veterinary Serviceを訪問した。9月12日には日本の保健所に相当するEdmonton Humane Societyを訪問した。ここでは多くの獣医師、テクニシャン、ボランティアによって動物にとってQOLの高い生活が提供され、多くの里親希望の方々が見受けられた。いずれも私のこれまでの価値観を大きく変えるものであったが、The Dairy Research Tourでの出来事は、今でもとても心に残っている。ここでは、アルバータ大学で家畜栄養学を専攻する大学院生のLaurenに案内してもらった。彼女はとても熱心に研究されており、私のつたない英語の質問にも丁寧に答えてくれた。日本の酪農業は大学でいくつかの情報を得たり本学の農場を見学したりして身近なものとなっていたが、海外のそれに関してはあくまで机上の話であった。しかし、今回実際に見学させていただきリアルなものとして受け止めることができた。牛という動物種は共通しており、生理現象などもサイエンスとして共通であるが、飼育環境や考え方は異なっている。世界と日本を比較する過程において、何が日本と異なるのか、“なぜ”そうなのかを考えることは非常に興味深いことだと実感した。思考の範囲を日本のみならず拡大することで、グローバルに問題を解決したいと思った瞬間でもあった。さらにこの秋からアルバータ大学の大学院生となられた久富さんにも出会った。私がLaurenと話す際、言語面で困ったことは通訳していただいた。かなり努力されていることが想像され、やりたいことを追っている姿はとてもかっこよく感じた。私は大学院に行きたいという気持ちはあったが、これまで日本以外の大学院に行くことは考えたことがなかったし、自分には無理だと勝手に限界のラインを引いていたのかもしれない。しかし、この機会は私にとってもかなり刺激的であり、やりたいことがあったら、自ら限界を決めず、トライし続けたいと思った。このように留学を通した出会いも自分の価値観や可能性を大きく広げる機会になった。

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写真④ University of Alberta, Dairy Research Centreにて。
左から順に、案内をしてくださった家畜栄養学専攻の大学院生Lauren、筆者、
この秋から大学院生となられた久富さん。

9月13日から15日にかけてはカナディアンロッキー山脈観光の中心地、バンフ国立公園を訪れ、カヌーなど様々な自然に触れる活動を行った。日本とは規模の違う壮大な自然を目の当たりにして、普段私が悩んでいることはどれほど小さいのかということを考えさせられた。まだまだ私の視野は狭く、世界には自分の知らない景色、知らないことが山ほどあるのだと身をもって体感した。今後もこのような体験をあらゆるところでしたいと思った。さらにチューターのShirinやRicha,、他大学の日本人学生と交流を深めることができたのも思い出の一つとなっている。

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写真⑤ Sulphur Mountain展望台への道にて。
左から順に、私たちのチューターとして様々な場面で
案内、一緒に行動してくれたELSのRicha、
同プログラムに参加した本学4年の藤田君、
筆者、同4年の今野さん、
そして私たちのメインチューターのShirin。

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写真⑥ Bow Fallsにて、一緒に参加していた
明治薬科大学5年生の皆さんとの写真。

 また、9月16日には、日本人の多くがイメージする新入生歓迎会のような、サマーソーシャルというパーティーがあり、ELSの多くの学生が参加した。たくさんの友達と楽しい時間を過ごした。ELSには多くのメキシカンがおり、パーティーでもとても陽気であった。私はメキシカンの友達にもたくさん声をかけていただき、最後にはサルサというダンスを踊るまで打ち解け、とても楽しい時間を過ごした。

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写真⑦ 左から順に筆者、クラスメイトの
ドイツ出身のTobias、アクティビティから
仲良くなったメキシコ出身のMoshe。

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写真⑧ ある日の食事風景。私の友達はとても明るく、
日本語やスペイン語をお互いに教え合いながら、
楽しいランチタイムを過ごした。

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写真⑨ クラス最終日に撮った写真。
左は私のクラスを担当してくださった、教授 Nicole。

最後に、時系列の枠を超え、本留学を3つの観点から総括する。1つ目に、英語力の向上について述べる。私は特にリスニング力が向上したと思う。私のクラスの教授、Nicoleは、ネイティブに対しても早口と思わせるくらいエネルギッシュな話し方をされる方であった。初めはもっとゆっくり話してくれる教授だったらなとも思ったが、今では私のクラスの担当が彼女であったことに感謝している。なぜならネイティブの話すスピードを聴き続けるという体験はなかなかできないものであるからである。クラスが始まり1週間くらい経ってから、クラスでのトピックも難化し全然聴き取れないことが続き、私自身落ち込んでいた。しかし、一昨年同コースに参加されていた先輩から、「耳は徐々に慣れるから」と言っていただいたので、私も諦めずに集中してなんとか聞き取ろうと努力しながら授業に望んだ。加えて、「英語を上達するために留学しているのだから初めからできるはずがない、この機会を最大限生かそう」と自分に言い聞かせ、私の悪い部分であるネガティブ思考が出ないように、カナダ人やメキシコ人のようなプラス思考でいるように努めた。この過程を経て、日本にいる時よりも授業後に頭の疲れを感じながら、少しずつ自信を持って授業に参加できるようになった。さらにわからなければ聞くという習慣も身に付けることができた。2つ目は、異文化に触れることを通して、視野を広げることができた点である。例えば、挨拶、パーソナルスペース、ボディータッチ、表情、アイコンタクト、様々な面で文化の違いを体感することができた。特にELSの授業テーマは文化に力点が置かれていたので、必然的にクラスメイト同士で文化に関する理解を深めることができた。加えてクラスでは“文化”とはそもそも何かということも学ぶことができた。これはクラスで扱われた多様なトピックの一つに過ぎないが、興味深いと感じたので共有したい。文化とは変わり得るものであり、例えば日本からカナダに来ると自分自身が持っている文化を変え適応しなければならず、日本に帰るときはカナダで養った文化から日本のそれに戻す必要があるといった具合だ。つまり私はカナダにいるので、日本のアイデンティティは持ちながらも適応しなければならなかったのだ。他にも、日本で獣医学を学んでいるだけでは知りえないようなことを広い観点からたくさん吸収することができた。私は、将来的にも海外で活動したいという夢があるのだが、このように視野が広がることの面白さを現時点で体験できたことは、私に、「また海外で活動したい。そのために英語を始めとする勉強を頑張ろう。」と思わせてくれる良い機会となった。3つ目は、積極性を養うことができたことである。まず現地で会話をするときは、笑顔で挨拶しようと心掛けた。友達の多くが明るくとても楽しい時間を過ごすことができた。限られたカナダでの時間を自ら楽しもうという姿勢が特に大切だと思った。やはり受け身の姿勢では何事もうまくいかない。上述したようにカナダに来ることで自らの“文化”を変えたこともあるが、この能動的に行動するということは日本でも実践したい。特に学問に関して言えば、海外の学生は非常に能動的に取り組み、積極的に質問する。私も日本の講義で不明な点、興味を持った点があれば、講義後積極的に先生のもとに行くようにしたい。さらに、多少の失敗が許される学生のうちに、自分の興味の持ったことに対してはとことん精力的に取り組んでいきたい。

 まとめると、私はこの留学でたくさんのモチベーションを得ることができた。極端なことを言えば、去年このプログラムに参加していれば1年早く高いモチベーションと広い視野を得ることができたのではないかと思うくらいである。そう思える程、私は本留学に参加して良かったと思っている。この経験を無駄にしないよう、これからも精進していきたいと思う。