トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 8月分

掲載日:2019.09.30

獣医学群獣医学類5年 梅原悠季

ウガンダでの10ヶ月半の活動が終了し、日本に帰ってきました。8月はJICAプロジェクトを離れ、農家にファームステイしながら活動をしていました。最後の報告書では、8月の活動とウガンダの留学振り返りについてお話ししたいと思います。

1.ファームステイ

ウガンダ最後の1ヶ月は、ムバララ県内有数の近代的な農家であるRUBYERWA DAIRY FARMにファームステイしながら活動していました。この農家は以前まで活動していたJICA草の根でのプロジェクト協力農家の一つでもあり、ワークショップの会場になっていたり農家主体のトレーニングを毎月開催していたりと、アクティブに活動している農家です。

プロジェクトからファームステイに切り替えた経緯は、ミルクバリューチェーンとミルクビジネスの構図を“外国の支援団体”の目線から“バリューチェーンの一部である農家”の目線で見てみたいと考えたからです。RUBYERWA FARMでは朝5時、まだ日が昇る前から搾乳準備を始め、暗い中6時頃から搾乳を開始します。夕方3時の搾乳までは掃除や飼料準備など、日本の酪農と大きく変わらない印象です。一つ異なるのは、全頭手絞りのため、40頭の搾乳に1時間以上かかることです。しかし手絞りのため過搾乳が少なく乳房炎の牛の割合が低い、1頭1頭の異変に気づきやすいなど、このくらいの頭数規模であれば時間がかかる以上にメリットが感じられる気がします。

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搾乳中のワーカーと乳量を記録するマネージャー
ワーカーは農家で働き始める際、まずハンドミルキングの猛特訓を受けるらしい。スタッフがこれだけ多くいるのに全員搾乳手順が統一されておりしっかり守っていることに驚いたが、指導方針を見て納得できた。手絞りは時間と手間が圧倒的にかかり、牛のポテンシャル分絞りきれないなどデメリットもありますが、停電に左右されない点、絞り過ぎがない点、乳量が出るような品種改良がまだ進んでいない点において、今のウガンダには最適な方法であると感じる。

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農家の放牧の様子と星空
RUBYERWA FARMでは約60頭の牛を飼っている。1頭の乳量は、ウガンダの平均を大きく上回る20L /日ほどである。頭数はそれほど多くないが、広大な放牧地と大きな貯水池があり、乾季も安定した水が得られる。また、積極的に品種改良を行なっており、ブリーダー的な役割も果たしている。農家はこれまで私が過ごしてきたダウンタウンから離れた丘の中にあるため空気が非常に澄んでおり、ウガンダに来てなかなか見ることのできなかった満点の星空を毎晩眺めることができた。ファームステイは、寒さの中水シャワーを浴びたり、電気配給が不安定、マーケットが遠いなど多少の不便はあったが、1ヶ月以上止まらなかった咳がピタリと止まったり、毎朝フレッシュミルクでチャイを飲めたり星空を眺めたり、ある意味ムバララらしい生活を堪能することができたと今も懐かしく思い出す。

ファームステイ一番の目的であったミルクバリューチェーンとミルクビジネスの構図を農家視点で見るというミッションは、ファームステイ2日目にして呆気なく達成され、私がこの構図の中でどの部分に関わりたいのか、改めて考えさせられることになりました。下図が聞き取りをもとに作図したバリューチェーンの図です。

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この図の中で、JICAプロジェクトでは下のカオスな農家をターゲットに普及活動を行っており、RUBYERWA FARMもこのカオスな農家の一つです。さらにRUBYERWA FARMは他農家に対するトレーニングやイベント会場貸し出しなど独自のビジネスも行っているため、生産・教育農場としての役割が大きく、収入源は教育ビジネスの比重が起きい印象を受けました。
また、農家からミルクを買い取りレストラン等に販売する仲介人“ミドルマン”の存在が、農家の収入向上の妨げになっていることも分かりました。農家はそれぞれプライベートのミドルマンと契約し、乳価はミドルマンとの交渉になるため、乳質が上がっても乳価は変わらないのです。図上のビックカンパニーのチェーンでは、乳質によってボーナスをつける仕組みができつつありますが、ボーナスは農家に還元される仕組みになっておらず、こちらも農家の利益を上げることに直結するには抜本的な構造改革が必要になるでしょう。
これらの構造を見て、私は獣医師としての専門性を活かした技術指導よりも、いかにミルクを売り利益を得るか、ビジネスの仕組みを知ることに興味を抱くようになりました。ビジネスを学ぶことは、ミルクに限らない様々な商品、サービスを売って利益を得る仕組みを学ぶということです。それは獣医療にも必要なノウハウであると同時に、さらに獣医領域に限らない、生き方の選択肢を大きく広げることになると確信しています。

2.留学の振り返り

今回の留学では、本当に多くの「挫折・気づき・学び」を得ることが出来ました。先進国で学んでいるのだから学生レベルでも現地に行けば何か役に立てるだろう、という甘い考えのもと渡航した私は、渡航後すぐに挫折を味わうことになりました。現地では日本で学んだ獣医の知識は全く使い物にならず、教科書でしか見たことのない病気が当たり前に存在しており、実技に関しては実践経験の多い現地学生の方が随分と慣れており、私は現地の人々から教わることしかできませんでした。また、現地の酪農は日本のような設備の整った環境とは全く異なるため、あるものでできることをするしかなく、何もない中で何かを行うのは現地の人々の方が随分と長けていました。何もできないまま、何をすれば良いか何をしたいかも分からないまま数ヶ月が過ぎ、自分は何がしたいのか問い続けていました。私はなぜアフリカに憧れたのか、なぜ獣医の道を選んだのか、これからどう生きていきたいのか、何度も問い正直な自分の本心に触れ、そこで気付いたのが、「自分の強すぎる拘り、拘りに縛られ過ぎている自分」でした。これらに気づき、そんな自分を認められるようになった今、私の本当に好きなこと、私はどう生きていきたいのか真剣に考え、柔軟に様々な選択を取れるようになれたと感じます。

人は変化を必要としない環境では、変わりたくてもなかなか変わることができません。挫折を経験し、変わらなければならない局面に直面した時に初めて変わることができると考えています。私は、ウガンダでの1年がなければここまで変わることはできませんでした。自分の本心に素直に向き合うこともありませんでした。この経験は、私の生き方を大きく変えるきっかけとなった大切な時間です。留学を終えたこれから、この時の経験、考え感じたことを振り返り続け、様々な局面で私の価値観や生き方を更新し続けて生きていきます。

トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 8月分

プロジェクトを離れる直前新しくプロジェクトの仲間入りをした子羊、ポン太。(呼んでいるのは私とごく一部のスタッフだけだが)プロジェクト終了後も、寒天培地用の血の提供で活躍してくれることを祈る。

3.これから留学を考えている皆さんへ

留学に行く=成長できる・将来したいことが見つかるという訳では決してありません。留学に行くことはゴールではなく、それらを得る手段でしかないのです。深く思考し、自分は何者か、どう生きたいのか考え続けること、それが結果として将来の道を明確にするかもしれませんし、語学力が爆上がりしたり起業できるほどのスキルが身についたりするかもしれませんが、それは全て結果論でしかないと思っています。私は憧れていたアフリカの地に留学した結果、アフリカにいるのに何も見つからず成長も見えず苦しみ、今の私の興味はアフリカでも獣医師でもないという気づきを得ました。そして、ビジネスを学びたいという今の興味に挑戦することができました。海外に留学している自分に価値を置き過ぎず、形に残る成果を残すことに拘らず、今を疎かにせぬよう、強く自分と向き合って欲しいと思います。(私自身への教訓でもあります。)
とはいえ、留学はもちろん苦しいことばかりではありません。悩みを分かち合い、その後の人生に深く関わる仲間ができたり、純粋にその国の文化や食、人との触れ合いは新たな刺激を与えてくれるものと思います。どうか留学の時間を目一杯使って、様々な出会いや経験を大切にし、留学という機会を皆さんの目標に挑戦する手段として頂きたいと思います。