トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 6月

掲載日:2019.07.09

獣医学群獣医学類5年 梅原悠季

ウガンダでの生活も8ヶ月半が経過し、帰国まで残り約2ヶ月となりました。6月はラマダン・イード(1ヶ月間に及ぶラマダン明けの祝日)で国が賑わったり、かと思えば隣国コンゴでアウトブレイクしているエボラ出血熱がウガンダ国内に持ち込まれ混乱したりと慌ただしい1ヶ月間でした。
今回は、1.プロジェクト3年間のリサーチ結果 2.ウガンダのブルセラ事情 3.普及活動の効果について紹介しています。

1.プロジェクト3年間のリサーチ結果

私がインターンシップをしている、JICA草の根事業「ムバララ県安全な牛乳生産支援プロジェクト」は2016年10月からスタートし、2019年9月をもって3年間に渡る全調査・普及活動を終了します。
現地での活動は8月いっぱいで終了するため、活動期間残り約3ヶ月となった今月はこれまでリサーチのために集めたデータを解析・編集し、農家さんに還元する作業をしていました。リサーチはダニ媒介性疾病であるECF(東海岸熱)、搾乳衛生、栄養・繁殖管理をターゲットに行われ、初年度と最後年度でそれぞれの項目がどれだけ改善したか比較します。
この結果をまとめ、コメントを添えて農家さん一軒一軒に返却するという一見すると非常に単純作業ですが、ここでの農家さんとの会話は私が最も楽しみにしている時間と言えます。

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農家さんに返却した結果。ECFと乳房炎の陽性率を初年度と今年で比較し、コメントを載せている。ECFは全子牛の血液サンプルをマケレレ大学にてPCR解析し、乳房炎は全泌乳牛の乳サンプルを培養し、細菌の同定を行った。ECF陽性率の結果は農家さんによって増減があったが、乳房炎陽性率の結果は殆ど全ての農家さんで減少し改善が見られた。しかし、搾乳方法に改善の見られない農家さんでも乳房炎減少の結果が得られているため、普及活動以外の要因が関係している可能性も十分に考えられる。
同定された乳房炎の主な原因菌は、レンサ球菌やCNS、コリネバクテリウムなど環境性乳房炎の原因となるものが多く、一部で伝染性の高いSA(Staphylococcus aureus)も見られた。

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協力農家さん一軒一軒を訪問し、結果を返却・説明している。主に英語の分かるマネージャーさんやオーナーさんに説明するため不便することは少ないが、英語を知らない人に説明することもあるため、ドライバーや学生(県庁獣医オフィスでインターン中)を連れて行き通訳してもらうこともある。
日本のように郵送や電子メールが整った環境ではないため、用事がある度に現場に赴くしかないのが少し不便を感じる所。農家さんによっては往復2時間かけて訪問し、滞在時間数分ということも。Google mapに載っていない、いくつかマトケ畑や丘を越えた所に位置する農家さんが殆どであるため、最初はどうやって道を覚えているのか不思議で仕方なかったが、8ヶ月も通っていると自然と道を覚えている自分を少しばかり誇らしく思う。

リサーチの結果は、プロジェクト協力農家30件全てで乳房炎陽性率が下がったというものでした。(ECFは農家さんにより増減あり)要因は様々あるかもしれませんが、搾乳衛生で勧めている一頭一布システムの効果も大きいのではないかと、今後のquality of milkのさらなる改善に希望を見出しています。

結果返却で私が最も楽しみにしていたのは、農家さんの生の声を聞くことです。改善されている結果を見て素直に喜ぶ農家さんがいる一方で、何もやり方を変えていないのになぜ改善したのか聞いてくれたり、改善された結果とは裏腹に未だダニの被害に苦しめられているという農家さんもおられます。こういった調査だけで終わらない、現地の人との密な交流が現地の人たちが本当に求めるもの、現地にある問題の本質への気づき・理解を深めてくれていると感じます。
また、調査結果を農家さんに伝えるというのは、介入パッケージを実践してくれている農家さんのモチベーションの向上や、現状を理解してもらう上でとても効果的です。しかし、もっと大切なことは結果に対するソリューションを提示すること、一緒に考えていくことだと感じます。

2.ウガンダのブルセラ事情

獣医オフィスのラボにいると、よく農家さんが検査のために血液サンプルを持ってこられます。ここでお願いされる検査は、大抵が血液寄生病原体による疾病(ECFやバベシア症、アナプラズマ症など)かブルセラ、糞便の虫卵検査です。ウガンダはこれら病原体の汚染国であり、大きな問題となっています。
そのため、農家さん自ら病気を予測診断してラボにサンプルを持参することがしばしばあります。牛のブルセラ症といえば、日本では口蹄疫や豚コレラに並び法定伝染病に指定されている、家畜産業に甚大な影響を与える感染症です。日本では徹底した管理によって半世紀前に撲滅されており、発生するとニュースになるほど珍しいものとなっていますが、開発途上国では依然として発生が多くなっています。ウガンダでもブルセラ症は日常的に見られ、ムバララ県獣医オフィスのラボでもよく取り扱います。
また、ブルセラは経口や皮膚、粘膜から人にも感染するため感染動物や検体の取り扱いには十分注意が必要です。

リサーチ結果返却でたまたま訪問した農家さんにて、ブルセラを疑う症状の牛がいたため、採血しラボで検査することにしました。

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訪問した農家さんで最近2頭流産したと相談を受け、ブルセラを疑い採血してラボで検査することに。(右写真:採血は尾静脈から。)結果的に2頭中1頭でブルセラが陽性を示し、検査結果を返しに行った日の朝、陽性の牛が亡くなっていたことを知る。この農家では雄牛を飼っており自然交配をしているため雄牛も含めた全頭のスクリーニング検査をすることを強く勧めた。

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ブルセラの検査(ローズベンガルテスト)
血液サンプルを遠心機にかけ(左上)、血清をプレートに垂らしブルセラ検査用試薬(右上)を一滴垂らす。(左下)ブルセラ陽性(ブルセラに対する抗体を持っている場合)では凝集反応によってツブツブが現れる。
ブルセラは人にも感染する人獣共通感染症である。本来ならば検体を扱うテクニシャンにも感染の危険があるため、グローブやマスクなどで防護すべきであるが、私服に素手で作業する様子が度々見られる。

3.普及活動の効果

プロジェクトでは普及活動を主に協力農家30件に対して行なってきましたが、何度か開催してきたワークショップには協力農家さん以外の農家さんも多く参加してくれています。協力農家さん以外の農家さんに対する普及効果がどれほどあるのか、今回初めて協力農家以外でプロジェクトのメソッドを実行してくれているという1件の農家さんを訪ねることができました。訪ねた農家さんは、プロジェクトカウンターパートの一人であるAliceが担当する農家さんです。

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協力農家外の農家さんにどのくらい普及しているか
(左上)一頭一布メソッドを取り入れ、ものすごく正確に実行してくれている。乳頭を拭いた後の布を洗浄・消毒して干してくれている。
(右上)ポストディッピング。搾乳後の乳頭は乳頭孔が開き細菌感染しやすくなっているため、ヨードを付けて予防する。ヨード液、ディッピングボトルは安く無いため、わざわざ購入して実施してくれる農家さんは少ない。
(左下)記録簿。乳量、発情観察、AI、治療歴を記録し始めてくれている。記録をどのようにつけるか、どのように活用するかをさらにレクチャーすることができる。
(右下)ミルキングパーラー。飼槽と仕切りを設けることをオーナーさんにアドバイスした。

この農家さんはオランダがウガンダで行っている酪農プロジェクトのワークショップに参加したことがあるらしく、子牛の飼養、飼料改善、パーラー改築など様々な技術を積極的に取り入れている印象を受けました。私たちのプロジェクトのメソッドは、Aliceの熱心な指導でここまで根付いているようです。ワーカーさんが一頭一布メソッドを過不足なく再現してくれているのを目にして、かなり感動しました。
プロジェクトで普及してきたメソッドは、プロジェクト終了後も協力農家さんやカウンターパートを起点にさらに他の農家さんに広まっていくことを目指していますが、今回のように現地の人々の力で他の農家さんに知識が根付き始めている様子を見るととても嬉しくなります。