トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月

掲載日:2019.06.10

トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月

獣医学群獣医学類5年 梅原悠季

ウガンダでの生活も7ヶ月半が経過しました。帰国まで残り3ヶ月となった今、ウガンダの酪農周りの事情や現地農家さんたちのニーズ、自分が日本人としてどのように関わることができるのかについて、少しずつ見えてきたものがあります。
今回は、1.普及活動とその成果 2.ウガンダの農家さん 3.日本人として途上国支援に関わるということについて紹介しています。

1.普及活動とその成果

現在プロジェクトは最終フェーズに突入し、1年間行ってきた普及活動の効果を検証するための調査を行っています。現在行っている調査は、これまで普及活動を行ってきた搾乳衛生・栄養・繁殖の項目に改善が見られるかについての、採材、聞き取りによる調査です。搾乳衛生については全搾乳牛の乳房炎調査を行い、プロジェクト開始時の乳房炎罹患牛のデータと比較し評価します。栄養、繁殖項目については、濃厚飼料を与えているか、計画的な繁殖管理を行っているかなどを農家さんに聞き取り、同様にプロジェクト開始時データと比較、評価します。

トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月
トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月

(左)栄養・繁殖項目は質問票に沿って聞き取りをベースに調査を行う。特に繁殖項目の聞き取りはレコードブックが必要となるが、初年度記録をつけていなかった農家さんも今回の聞き取りで記録をつけ出してくれていたりと、少しずつ変化が見られるのが嬉しい。(右)搾乳衛生項目は搾乳牛全頭の乳房炎検査(CMT)を行い、陽性反応が出たミルクはラボに持ち帰り細菌の同定を行う。検査結果を記録しつつ、各牛の乳量や識別番号を記録していくが、耳標のない牛や乳量の記録のない農家さんも当然ある中、マネージャーやワーカーが20頭前後の牛それぞれの情報を暗記していることに毎回驚く。

調査をしつつ感じたことは、目に見える農家さんの変化が必ずしも良いデータとして反映されるわけではないということです。ある農家さんでは、枯れ果てた牧草地、痩せ細った牛(最高BCS2.5だったそう)、1日平均乳量2L /頭と、とても酪農で生計を立てられるような状態ではなかったところから、現在では牧草が生い茂り、牧草だけでなく濃厚飼料も導入することで、乳量・体格が大きく改善され、同じ農家とは思えないほどの変化を遂げたそうです。
また、他の農家さんでも「教えてもらう通りに飼料や搾乳衛生を改善したら乳量が倍以上になった」と感謝の言葉をたくさんいただけることもあります。データだけ見れば、各チェック項目に対しての改善の程度は農家さんによって大小あります。
しかし、今お話ししたような現地農家さんの生の声や、3年間での変化のストーリー(プロジェクトは3年計画で行われています)も、データだけでは表せない成果として評価されて欲しいと感じます。
また、作業自体は泥臭い単純作業に思われますが、このような農家さんの生の声を聞くことができるのも、現地に滞在し草の根レベルで農家さんに関わる我々の特権であり、草の根から関わっていくことの大切さを強く感じることができます。

2.ウガンダの農家さん

ウガンダの農家さんに通い始めて約7ヶ月半が経過し、牛の飼い方に関してウガンダのスタンダードが少しずつ分かってきました。日本の一般的な農家さんと比較しつつ、幾つか紹介したいと思います。

搾乳:日本では早朝と夕方の1日2回、機械搾乳が主流です。1頭当たり1日30〜40L生産します。一方、ウガンダの農家さんでは1日1回または2回搾乳で、早朝(3〜6時)と昼(12〜15時)、手絞りがほとんどです。乳量は1頭当たり1日10〜20L前後が平均です。日本の牛は乳量が出るよう改良・飼養されているため、1日2回搾らなければならない体になっていますが、ウガンダはごく自然に近い形で飼養されているため乳量が低い代わりに1日1回搾乳で十分だったりします。
また、電気、水道の通っていない地域も多いため、太陽と共に仕事を開始・終了しており、日本では考えられない環境ですが自然とともに非常に合理的に酪農を営んでいると感じます。

トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月
トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月

(左)搾乳中の保定は牛の後肢をロープで縛るだけ。近づき方を間違えるとすぐ逃げてしまうので注意して近づく必要がある。人慣れしておらず逃げ回る牛を現地ワーカーさん達は器用に捕まえて縛るので、毎回感心させられる。(右)手絞り搾乳の様子。機械を使わないので過搾乳になりにくいが、手洗いや乳頭洗浄をせず搾乳をすることがほとんどなので、乳房炎が発生すると蔓延しやすい環境にある。

施設:一般的なウガンダの農家さんには日本の牛舎のようなものはありません。広い放牧地、クラールと呼ばれる牛が集められる囲い、クラッシュと呼ばれる牛を保定するための囲いが、牛に関する施設のほぼ全てです。一部農家さんによっては搾乳パーラーが存在しますが、存在しない農家さんではクラッシュや放牧地でそのまま搾乳を行います。
そのため糞や尿が搾ったミルクに混じりやすく、乳頭が汚れたまま搾乳することも多いため、搾乳衛生の面で改善の余地がある農家さんが多く存在すると考えられます。(基本的に水道が通っていないので、水で洗うという習慣に乏しいと考えられます。)

トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月
トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月
トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月
トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月

(左上)広大な放牧地。ムバララでは丘が連なる風景が多く見られるが、丘にはマトケ畑か牧草地が広がる。(右上)クラッシュ。牛の治療や殺ダニスプレーを撒く際に牛を保定する目的で使われる。調査でも採材する際によく利用させてもらっている。(左下)クラール。放牧中の牛を一旦集める場所。牛の就寝場所となったり、パーラーの無い農家さんでは搾乳場所となったりもする。(右下)パーラー。奥に飼槽があり、餌を食べさせながら搾乳する。パーラーの大きさ、造りは農家さんによって差はあるが、写真はローカルの農家さんで一般的に見られるパーラーである。

驚くこと:農家さんに通い始めて約7ヶ月半、未だに見慣れない光景があります。それは、搾りたて生ミルクを牛の隣でごくごく飲む様子と、手絞りしている反対側で子牛が母牛のミルクを飲んでいる様子です。搾乳の様子を見ていると、尿や糞がミルクに飛び散って混入していたり、汚れた乳頭を拭かずに搾ったりするのが普通であるため、ウガンダで生乳を飲むのは憚られてしまいます。たまに現地の人たちに生乳を勧められますが、搾乳衛生の様子を知っているだけに挑戦する勇気はまだありません。
また、子牛の飼養方法で日本と違うのは、哺乳を直接母牛からさせるやり方です。搾乳時間になると、普段隔離している子牛を解放し、自由に授乳させます。乳頭が傷ついたり乳房炎になりやすくなるのでは無いかと考えていましたが、これもごく自然で合理的な育て方なのかもしれないと見守っています。

トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月
トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月

(左)搾りたて生ミルクを飲むワーカーさん達。彼らはお腹を壊すことは全く無いらしい。免疫系が違うのかと思わざるを得ない。(右)母牛のミルクを飲む子牛。離乳していそうな月齢の子牛も見受けられる。

3.日本人として途上国支援に関わるということ

プロジェクトのオフィスは現地地方政府の獣医事務所に置かれており、ここには海外機関からの訪問者もたまに訪れます。ここムバララ県はウガンダで2、3番目に大きい都市であり、特に酪農が盛んな地域でもあるため、酪農に関わる国際機関プロジェクトが介入しやすいと考えられます。事務所のラボにはJICAだけでなくその他の国際機関から寄付された設備も多くあります。(顕微鏡や冷蔵庫、発電機、クリーンベンチ、ELISA検査グッズなど)また、ムバララ県の農家さんに対してもオランダの国際機関がプロジェクトを進めており、設備投資をするなど非常に大規模な支援が行われています。このような海外機関からの支援を現地で見ながら、「日本人として現地に貢献できること」について考えたことを書きたいと思います。

私が現地で多く見る国際機関の支援は、“物を寄付する”という支援の仕方です。寄付されたものが現地でどのように役に立っているかというと、全く使われず放置されているケースを多々目にします。水インフラの整っていない村に井戸を作ったはいいものの、海外製の水汲み装置は劣化・故障すると誰も修理できず今では全く使われていないケース。農家さんに対して、牛の糞からバイオガスを得るシステムを導入し設備も与えたが、現地の人達にとっては従来の木炭の方が使い慣れており、ガスが全く使われていないケースなど、様々なケースを見ることができます。ここで私が日本人として貢献できると感じたことは、“外国人として現地に溶け込み、草の根レベルから泥臭く現地の人たちに関わり続ける”という支援の仕方です。
例えば、外国人が建ててくれたはいいが使い方がわからないという物に対して、現地の人達がその価値を見出し、自ら進んで活用するようになるまで使い方を教えるという支援は、日本人が得意とする関わり方であると感じています。日本人というアイデンティティを持ちつつ自然と育んできた、当然のように相手を気遣うという考え方、理解しようとする姿勢は、異国の地に適応し、現地の人をより深く理解する上でとても活きると考えます。そしてその適応力と理解する姿勢が、現地に寄り添った支援のあり方の基本になると強く感じています。

短い期間ではありますが、実際に現地に住んで感じたこととしてこの考えを大切に育てつつ、残りの時間も「私」として、「日本人」としての現地での関わり方を考え続けたいと思います。

トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(ウガンダ)活動報告書 5月

“I love Uganda”