オーストラリア日本野生動物保護教育財団プログラムに参加して
掲載日:2025.09.11
獣医学類3年 小澤そら莉(Solari Ozawa)
1.はじめに
このたび、オーストラリア日本野生動物保護教育財団(AJWCEF)主催の「第3回オーストラリア野生動物保護 応用トレーニングコース」に9日間参加し、オーストラリアの豊かな自然環境と野生動物を取り巻く課題について幅広く学ぶ機会を得ました。
私が本プログラムに参加した目的は、オーストラリアで独自な進化をとげた有袋類、単孔類に関心があったこと、そして現地における野生動物保護を支える医療の実情を学びたいという思いがあったためです。
本プログラムでは、ノースストラッドブローク島にあるモートンベイ海洋研究センターを拠点に海洋環境や生物の保護について知識を深めることができました。またカランビン野生動物サンクチュアリにて、オーストラリア固有の野生動物たちの特性や保護の実態に触れることができました。
今回の経験は自分の将来を考えるうえでも大きな分岐点となりました。
2.プログラム概要と具体的な体験
最初の3日間は、ノースストラドブローク島にて研修を行いました。この島は、約2万年前からアボリジナルの人々が暮らしてきた歴史を持ち、現在も木々には先住民族の方々によるマークが残されています。
講義ではオーストラリア周辺に生息する海洋生物についての講義を受けました。実習では、内湾と外湾での海洋ごみの収集と比較調査を行いました。内湾では比較的大きな海洋ごみが見られ、外湾では波や風が強い影響により、細かい海洋プラスチックごみが大量に確認されるなど環境ごとの特徴が明らかになったことが印象的でした。
また、プランクトンを採取・観察する活動を通じて、生態系の基盤を担う微生物の重要性について理解を深めることができました。加えて、干潟での生物調査も行い、ヤドカリをはじめとする小さな生き物を観察しました。
実習の合間には、海岸線を歩きながらザトウクジラやミナミハンドウイルカ散策やバードウォッチングを行いました。また実習がない早朝や日没前に、野生のコアラやカンガルーを探しに行く日々は、私にとって発見と感動の連続でした。講義や実習で得られる学びと、自然の中での体験が結びつき、知識を実感として体験できたことが大きな収穫でした。
移動日と休養日を経て、ゴールドコーストのカランビン野生動物サンクチュアリで2日間の実習を行いました。この日からは、参加メンバー6人との共同生活が始まり、自分たちでスーパーへ買い物に行き、自炊や家事を分担しながら過ごしました。スーパーにカンガルー肉が普通に置いてあったのを見て、オーストラリアに来た実感を強く感じました。共同生活では、様々な背景をもった参加メンバーの皆さんとお話しすることができ、私にとって非常に刺激的で楽しい時間でした。
カランビン野生動物サンクチュアリは、オーストラリア固有の野生動物を診療する非営利団体で、活動資金は寄付や遺産によって支えられています。獣医師や看護師、そして多くのボランティアが協力して運営していることを知り、そのオーストラリアの野生動物を保護する仕組みに大きな驚きを覚えました。
実習では、油に汚染された鳥の洗浄方法、診察台での治療見学(ヨタカやコアラの治療)、入院動物の栄養学、鳥類の強制給餌、コアラやハリモグラといった固有動物の解剖学的特徴の学習、さらにはコアラの解剖やダーツガンの実習、野生動物搬送用の救急車の見学など、多岐にわたる内容を経験しました。どれも日本ではなかなか得られない学びであり、自分が関心を持っていた分野を深く知る機会となりました。
実際に動物が直面している課題と、それを守ろうとする人々の熱意に触れたことは大きな刺激となりました。とりわけ自然に帰すことを最優先にする姿勢は、日本との違いを強く感じさせました。毎日が新しい学びにあふれ、頭がいっぱいになりながらも、とても幸せな時間を過ごすことができました。
3.学び、気づき
今回のプログラムを通して、オーストラリアの野生動物保護や環境管理における具体的な取り組みを学ぶことができました。内湾と外湾での海洋ごみ調査では、環境によってごみの種類や影響が異なることを実感し、環境保全にはきめ細やかな対応が必要であることを理解しました。カランビン野生動物サンクチュアリでの実習では、個々の動物に合わせたケアの重要性や、自然に戻すことを最優先にする保護の理念に触れ、日本の野生動物保護の現状との違いを学ぶことができました。
4.今後の展望
私は以前から、動物を病気から守るという予防医療の観点から、公衆衛生系の道に進みたいと考えていました。今回のプログラムに参加することで、得た知識や経験を公衆衛生系の研究に活かせると実感しました。
これまで海外で挑戦することは無謀だと思っていましたが、やりたいことが明確になれば、日本にとどまらず海外に視野を広げることも可能であると感じました。プログラム中には言語の壁にもぶつかり、英語のジョークが通じず悔しい思いをしたこともありました。この経験から、将来的には論文を翻訳版ではなく原書で読めるよう、英語力も磨いていきたいと思います。
今後は、自分のやりたいことに筋を通し、おじけづくことなく貫き通す姿勢を大切にしたいです。そして、学んだことを通じて、生き物を感染症や病気から守る活動に貢献していきたいと考えています。
5.まとめ
9日間にわたるプログラムは、学びと発見にあふれた貴重な体験でした。ノースストラドブローク島では海洋環境や生物の多様性について学び、カランビン野生動物サンクチュアリでは野生動物保護の現場での実践的な経験を得ることができました。
初めて出会った参加メンバーとの共同生活や英語でのコミュニケーションを経験することで、自分の視野や考え方が大きく広がりました。言語の壁や新しい環境での挑戦も、学びの一部となり、今後の進路に向けた糧となっています。
AJWCEF理事長である水野さんの「言葉は受け取り手の心の準備によって伝わるかどうかが大きく左右される」という言葉から、私は今後、自分を動かすような言葉や出来事に出会ったときに、それをしっかり受け止め、自分の行動に貫ける人になりたいと強く思いました。
今回の経験は、知識や技術だけでなく、人とのつながりや挑戦の楽しさも含め、今後の学びや活動に活かせる貴重な財産となりました。