海外農業研修報告書(国際農業者交流協会・アメリカ)2025年5月 久保田匠さん
掲載日:2025.06.09
酪農研究科 修士課程1年 久保田 匠(循環農学類(2024年3月卒))
夏が近づくにつれて、朝晩と昼間の気温差がだんだん大きくなってきたように感じます。牧場のある地域は砂漠に近い気候のため、日本とは異なり湿度のないカラッとした暑さが特徴です。汗もすぐに乾くので、私はこのような乾燥した気候の方がじめじめした日本の夏よりもずっと過ごしやすく感じています。晴れの日も多くなり、草が生い茂るようになり冬とはまた違ったの風景が広がるようになってきました。
今月からいよいよブランディングのシーズンが本格的に始まりました。先輩方からは、一年の中で最も大変な時期だと聞いていたので、正直少し不安もありました。しかし、アメリカに来たからには体験してみたかった作業のひとつでもあったため、今はとにかく多くのことを学び吸収しながらこの時期をしっかり乗り越えたいと思います。
6月からは「シュートブランディング」がメインとなるのですが、5月の間は「ロープブランディング」が主に行われました。
ロープブランディングでは、放牧地からカウボーイたちが連れてきた母牛と子牛のペアをU字型の囲いの中に入れ、その中から子牛を選びつつ前足と後ろ脚にロープをかけて地面に寝かせ、行動を制限した状態で処置を行います。足はロープで縛られているため起き上がることはできませんが、尻尾や胴体を使って激しく暴れることがあるので、それをうまくコントロールしながら迅速かつ丁寧に作業を進める必要があります。2人でロープを同じ方向に引いて子牛を寝かせるのですが、これは想像以上に力と技術が求められ、最初はかなり苦戦しました。周りの人たちの動きを観察しながら、自分で何度も実践してみることで少しずつ感覚を掴んできましたが、まだまだ練習が必要だと感じています。また機会があれば、ぜひ再チャレンジしたいと思っています。子牛を地面に寝かせた後は、去勢や焼き印(左後ろの太ももあたりへのブランディング)、ワクチンの接種、性別を一目で識別できるように耳の一部を切る作業などを行います。その他に耳には専用の道具で穴をあける処置もあり、これは他の牧場の牛と区別するための目印になるとのことです。放牧地では他の牧場の牛が紛れ込むこともよくあることや、冬に毛が長くなり耳標や焼き印が見えにくくなったときでも、こうした耳の形状で識別することができるようにするためだそうです。
一通りの処置をみなさんに教えていただきながら経験させてもらいましたが、どの作業においても共通して大事なのは、「いかに牛をコントールしつつ短時間で正確に処置を終わらせるか」だということを強く感じました。特に、カウボーイたちのローピング技術はすさまじく、次々と子牛を捕まえて連れてきていました。こちらもそのスピードに負けないよう、周りの状況を確認しつつ効率的に作業を進める必要があり、改めて彼らの経験値の高さと技術力に感心させられました。このような貴重な経験ができる牧場で働かせてもらっていることに心から感謝しつつ、教えてもらったことだけでなく自分の目で観察して学べるような姿勢を常に大切にしていきたいと思います。
その他の作業としては、灌漑設備であるピボットやポンプの点検と修理、放牧地のフェンスの修復なども行いました。町の周辺では、小型飛行機で肥料や農薬を散布している農家の様子を目にすることもできました。ほんの少しの操作ミスで地面に激突してしまいそうなほど地面すれすれの高度で飛んでおり、思わず見入ってしまいました。アメリカでは飛行機の操縦免許の取得条件が日本とは少し異なるという話も聞きましたが、それに加えて高い建物が周囲にないこの広大な土地であれば、飛行機を使った散布の方が効率的で現実的なのだろうかなと思いました。
気づけばもうすぐ6月に入ります。ここで働ける残りの時間がだんだん少なくなってきていることに気づき、少し焦る気持ちも出てきました。限られた時間を無駄にすることなく、一日一日を大切に過ごしながらできるだけ多くの人と会話や交流を重ねて、有意義で充実した時間にしていきたいと思います。