2023年度 タイ・カセサート大学単位互換プログラム 12月報告書(砂﨑さん)
掲載日:2024.03.22
タイ・カセサート大学単位互換プログラム報告書(12月)
獣医学群獣医学類5年 砂﨑香恋 (Karen Sunazaki)
貫くような太陽の日差しを受けて熱々になった砂浜を素足で歩いたホアヒンでのとある一日。渚に波がゆっくりと押し寄せ、白く泡立ち、じんわりと弾けていく様子を静かに見守る、そんなゆったりとしたのどかな時間が好きでした。さみしいけれどついにタイでの暮らしに別れを告げるときがやってきたようです。
最終報告書ではホアヒン動物病院での残りの研修内容について報告し、ホアヒンで過ごした一ヶ月間の思い出を紹介したいと思います。後半には三ヶ月に渡るタイでの留学経験から学んだこと、そして今後の課題について述べます。
まずはホアヒンでの最終週の授業内容です。
第11週:IPD/ Inpatient Department(ホアヒン動物病院、入院病棟)
IPDでは毎朝入院している犬猫たちの経過を確認し、処置を行う様子を近くで見学しました。第10週のCCU(Critical Care Unit、重症管理病棟)のような緊迫した雰囲気ではなく、比較的様態の安定した犬猫たちが入院していましたが、中には術後で明らかにぐったりとした子や予後が悪いと診断された注意の必要な子もいました。午前中の通常の健康チェックや処置が終わると、検査の予定が入っていれば超音波検査の見学をさせてもらい、先生に入院中の子たちの処置に関する質問や今後の手術の予定などを聞いて時間を過ごしました。長期間入院していた子もいたため退院予定を知ったときはホッとしました。元気に飼い主さんのもとへと帰れることが一番です。
毎日の朝処置で状態が改善している子を見ると安心しました。炎症部位や術創がきれいに治ってきていたり、食欲が出てきた様子が観察できると治療の効果が目に見えてわかり嬉しかったです。しかし、なかなか傷口が塞がらなかったり、特殊な症例で内科治療だけでは改善できそうにない場合などは他の科の先生方と相談して治療方針を変更したり、手術を検討することもありました。そのような場面に立ち会った際にはあとから先生方が英語で丁寧に説明をしなおし、レントゲン画像を用いてどこに問題があるか解説してくれたので大変勉強になりました。
第12週:OPD/ Outpatient Department(ホアヒン動物病院、外来診療)
OPDではエキゾチック、眼科、神経科、循環器内科など、それぞれの専門の先生について診療を間近で見学しました。犬猫の他にうさぎや鳥類の診察に立ち会うことができました。カンペンセンキャンパスでのエキゾチックの週とはまた異なった知識を得る機会となり嬉しかったです。診察の合間や検査結果の待ち時間に先生からクイズ形式で質問をされることがあり、鳥類やうさぎ、爬虫類の特徴や疾病に関する知識を懸命に思い出しながら回答し、わからないことがあれば丁寧に教えてもらいました。診察時間以外でもエキゾチック動物の臨床に関わる先生の経験上の話やエキゾチック動物の診療について知っておくべきポイントを解説してもらい、貴重な時間となりました。
その他で最も印象に残ったのは眼科の診療です。座学で学んだ様々な検査内容を実際に見ることができ、一部で補助に入らせてもらいました。犬猫の眼科疾患の診察を集中して見学する機会は今までなかったのですべてが新鮮な経験でした。外傷による角膜潰瘍の治療経過の確認のほか、多くは白内障や緑内障の症例が見られました。細顕灯微鏡での検査、シルマー試験紙での涙液量の検査、フルオレセイン染色による角膜の検査、眼圧測定などを飼い主さんの前で行いました。網膜電図検査は検査室を普段の診察時よりも更に暗くして行い、私はVTさんと一緒に暗闇の中で保定にまわりました。
OPDではたくさんの先生に関わり臨床の実際を隣に立って経験することができました。問診時の飼い主さんとの対話方法、検査や診断の丁寧な説明など、担当する動物たちとその飼い主さんに向き合う姿勢だけでなく、同僚の獣医師やVTさん、その他病院スタッフとの関係性を上手く築いたチーム獣医療に関して学ぶことが多くありました。
この週の研修最終日には症例発表と三ヶ月のまとめのプレゼンテーションを一人ずつ行いました。ホアヒン動物病院で過ごした一ヶ月の研修期間の中でそれぞれが興味を持った症例を一つ選択して発表しました。当日は現地ホアヒン動物病院の先生方だけでなく、バンケーンキャンパス動物病院の先生が数名遠隔で参加してくださったので両方に向けて発表する形となりました。私は腎腫瘍疑いの犬について経過をもとに類症鑑別や検査項目について調べ、担当の先生の話を参考に作ったスライドを発表しました。発表自体は緊張したものの無事に終えられました。ただ、先生方から受けたいくつかの質問の中で調べきれていなかったことや知らなかったことがあり、上手く返答できずに質疑応答の時間を終えてしまったことが大きな反省点となりました。まとめのプレゼンテーションではこれまでの授業や病院の研修で学んだことについて振り返り、タイの文化や食生活について印象に残った話を展開しました。友達と過ごした時間や週末の話など数々の思い出を写真とともに振り返りましたが、やはり三ヶ月の思い出を短い時間で語るのは難しかったです。
ここからはホアヒンで過ごした思い出や週末の観光について綴ります。
ホアヒンはなんといっても太陽に、海に、砂浜に…。まさにパラダイスです。日中カンカン照りの中をはしゃぎまわるのも良いですが、一日の終わりや週末の午後に近くのビーチで息抜きをする癒やしの時間が好きでした。小さい頃は毎日のように海で過ごしていたので、潮の香りが当時の懐かしい思い出を呼び戻してくれました。海辺で波の音を聞きながらのんびりと過ごせる時間は何歳になっても至福のひとときなのだと思います。ビーチにいるとき周りで同じようにくつろいでいるあらゆる年代の人たちを見かけてはそう感じました。
週末は宿泊しているホアヒンの動物病院の寮からそう遠くない場所で過ごすことがほとんどでした。自転車を必死に漕いで各地のローカルマーケットをめぐっては買い物をしたり、タイで最も美しい駅と言われるホアヒン駅を訪れたり、近くのビーチで海水浴を楽しんだりと周辺の観光スポットを巡っていました。マッサマンカレーやカオソーイといった美味しいタイ料理のお店を探したり、たまに迷子になりながらも街なかをぐんぐんと自転車で突き進んでいったりと美食探しの旅、そして体力勝負な旅が多かったように思います。一緒に時間を過ごしてくれた葉山さんと連日筋肉痛に怯えながらも二人で行き当たりばったりの旅を楽しめて良い思い出になりました。
ある週末は二人でホアヒンの動物園を訪れました。象に乗ってトレッキングをしたり、間近でヘビやワニの迫力満点なショーを見て楽しい一日を過ごしました。トラの飼育担当の方と話す機会に恵まれ、バックヤードでの出来事や動物園にやってきた当初のトラたちの興味深い成長記録などを教えてもらえました。大変貴重な経験になり、充実した週末を過ごせて嬉しかったです。
ホアヒンで印象に残った思い出の一つとしてビーチで乗馬した日のエピソードを紹介します。ホアヒンのビーチでは馬に乗って海岸をトレッキングすることが観光名物の一つとして知られています。小柄で可愛らしい馬たちは見ているだけで癒やしでした。ビーチを訪れる度に馬を連れている人たちに声をかけてもらっていましたが、とっておきの日に乗りたいと決めていたので普段は波打ち際で小さな子どもを乗せてテクテクと歩く馬たちの後ろ姿や波に消されかけた蹄の跡を見るだけで満足していました。最後にビーチを訪れた際にようやく乗ることができて良い記念になりました。馬の背から眺めたビーチは見慣れた景色でしたが、いつも以上にキラキラと輝いていて気持ちが高揚しました。その日は晴れていたこともあり、海の青さが一際美しかったです。本来引き馬をしてもらうようですが特別に許可をもらって自由に乗馬させてもらい、ビーチの端から端まで駈歩で風を切って走り抜け、期待以上の爽快感を味わえました。感激です。周りで様子を伺っていた人たちや海で泳いでいた人たちも近寄ってきて声をかけてくれました。楽しさを共有できたようで嬉しかったです。とても幸せな乗馬体験でした。
ホアヒンにいる間にロイクラトン祭りという伝統的なお祭りがありました。地域によって形式などは異なるようですが、タイの風習として川の神様に水を汚してしまったことを謝り、水を使わせてもらう感謝の気持ちを表す祭典なのだそうです。カンペンセンキャンパスでタイの友達から事前に大まかに話を聞いており、タイで大切にされている行事の一つなのだと知りました。ホアヒンのビーチでは葉や花で飾られた水に浮かべるための灯籠が売られていたほか、紙製のものに火を灯して空に上げている人たちが見られました。少し控えめでしたが、夜空にオレンジ色の光がゆらゆらと昇っていき、遠くに消えていく様子をじっと眺めたり、親子が一緒に灯籠を灯す様子を見守るなどして時間を過ごせました。このお祭りは水を大切に使わなくてはいけないことやきれいな水が飲めることを当然のことという意識で過ごしてはいけないことについて考えさせられるものであり、日本で暮らす私たちにも強いメッセージがあると思いました。日本では常に安全な水道水を利用でき、安心してこれらの水が飲めますが、タイでは日常生活を送るのに飲料水を購入しストックしておくことは必須でした。つい忘れがちになってしまいますが、日々の生活を見直して限られた資源を大切に利用すること、意識を変えていく必要があると改めて思わされました。
続いて、三ヶ月のタイでの生活を通しての想いや今後の課題についてです。
留学前の目標に専門知識を身につけることやタイの学生と交流すること、文化を体験することなどを掲げていましたが、いずれも積極的に行動することによって十分に達成できたと感じます。また、タイでの楽しかった思い出の大部分は現地で出会った素晴らしい仲間たちのお陰だと強く思います。
今回の留学プログラムを通して学んだ大切なことの一つに、「心のゆとりを作ること」が挙げれられます。何かを始めたり変えていこうとするにはまずは自分自身の心に余裕がないと長く続かないということがわかりました。見直していかなくてはならない今後の課題として捉えています。病院でお世話になった先生方にもカンペンセンキャンパスで出会った友達にも共通して言えることですが、タイの人たちは体力の維持のための努力はもちろんのこと、心のケア・セルフケア、すなわち「自分自身と向き合う時間」を大切にできているからこそ心にゆとりがあって周りにも配慮が行き届けられているのだと一緒に過ごす中で感じました。三カ月間様々な人と出会い、見習いたい背中を追って過ごした時間の中でたくさんの優しさ、刺激が得られました。これからは私から周りへ自身の経験を共有しながら人と人を繋ぐ「輪」、心と心を繋ぐ「和」を大切に、広めていきたいです。国を越えて、職業の垣根を越えて、様々な年代の人ちとこれからも関わりを持ちたいと思います。
このプログラムに向けての長い準備期間は大変なこともありましたが、諦めずに挑戦し続けてよかったです。これからも挑戦し続ける姿勢を忘れずに残りの学生生活を過ごしていきます。
最後に、この留学を実現させてくれた研究室の先生や仲間たち、いつも支えてくれた家族、応援してくれた友達、国際交流課・担当の先生方、留学に関わってくださったすべての関係者の皆様に心より感謝申し上げます。また、カセサート大学のAksorn先生を始め、各授業でお世話になったすべての先生方やスタッフの皆さん、ともに学び寄り添ってくれたタイで出会った仲間たち、一ヶ月間を一緒に過ごした北大生の小林さんと植田さん、そして一緒に派遣された4名に感謝の気持ちを記したいと思います。ありがとうございました。
これをもって最終報告といたします。3カ月間の報告書に目を通していただいたすべての方に感謝申し上げます。タイ王国、そしてこのプログラムの魅力を私なりの視点からお伝えできたかと思います。
ありがとうございました。
砂﨑香恋