2023年度 タイ・カセサート大学単位互換プログラム 9月・10月報告書(沼さん)
掲載日:2023.12.06
タイ・カセサート大学単位互換プログラム9月10月報告書
獣医学群獣医学類5年 沼妃美香 (Himika Numa)
9月23日にタイに到着してから早くも1か月が経過しました。
海外に行くのは人生で2回目、高校の修学旅行以来だったので、滞りなく出入国ができるかとても不安でした。しかし、同プログラムに参加している大塚さん、岡本さん、砂崎さん、葉山さんに支えられて無事にタイに着くことができました。スワンナプーム空港に到着すると、今年度交換留学プログラムに参加するカセサート大学(以下、KU)の学生たちが出迎えてくれました。そして、ここで初めてこのプログラムに参加する北海道大学(以下、北大)の植田さん、小林さんの2人にも会いました。
9月24日はガイダンスとKUの学生による大学案内がありました。夕方には、KUの学生に連れられ、今後の生活で必要なものを買い込みました。この買い物には引率で来てくださった北大の先生もいて、先生は17時以降でないと酒類の購入ができないというルールに苦心していました。このようなルールが定められているのは仏教大国のタイらしいと感じました。
9月25日には私たちのウェルカムパーティーがありました。ここで多くのKUの学生、また他の国からの獣医学生に会うことできました。料理はとても豪華で私たちのために辛くないものが用意されていましたが、タイの学生にとっては物足りない味だったそうです。
今月はKampeng Saenキャンパスに滞在しました。
9月25日からプログラムが始まり、最初の第1週目はLarge Animalユニットに行きました。ここでは2つのグループに分かれて、病院獣医師と一緒に往診に行きました。私は岡本さん、砂崎さんと同じグループになりました。
Large Animalユニットの先生、病院獣医師たちはとても優しく、私たちが理解できるまで言葉を変えながら教えてくれました。特に病院獣医師のDr.ミチ(以下、ピーミチ。タイでは年上の人の名前に親しみを込めてP’を付けて呼ぶそうです。)はとても面倒見が良く、このユニットでもユニットが終わった後も大変お世話になりました。
往診に行って注射や採血をさせてもらったり、大学内のデモンストレーションファームで直腸検査の練習をしたり、病院で手術を見学したりしました。日本との違いに驚くことが多くありました。
往診に行った際、聴診した牛の心拍数、呼吸数が習った基準値よりも早かったことを尋ねたところ、タイでは暑さのため心拍数、呼吸数が教科書よりも高い数値をとることを教えてもらいました。私たちが普段使っている教科書は、涼しい気候を持つ欧州に沿っているため、タイのような熱帯地域には当てはまらないことがあり、個体が異常かどうかは全体の状態を見ながら考える必要があると学びました。
羊牧場では5人で協力して100頭以上の羊から採血を行いました。私は酪農学園大学では中小家畜研究会に所属していため、このファームビジットはとても興味深く感じました。タイの羊は大人でも体重が40kgほどしかなく、子羊にしか見えないほどにとても小さく驚きました。タイの固有種は暑さに耐えるため、とても小さく、山羊のように毛が短いのが特徴だそうです。タイの多くの農場では血統管理がされてなく様々な品種が混じっていると聞きました。この農場には毛の一部分が私たちの羊として想像するような毛となっている羊もいて面白いなと感じました。また、畜舎の構造も面白く感じました。畜舎は高床式のようになっていて、羊の糞や尿が床の隙間から下に落下する仕組みになっていました。この構造は除糞の工程を省くことができ、また、糞尿による湿気も防ぐことのできる面白いシステムだと感じました。
Large Animalユニットで一番驚いたことは、直腸検査の際にグローブを個体ごとに変えることなく、使いまわしていたことです。タイでは粘膜を通じて感染する牛伝染性リンパ腫のような病気の統計調査が行われていないため、グローブの使い回しによる感染拡大のリスクは考えていないそうです。
金曜日のプレゼンテーションではダウナー症候群の牛について発表しました。前日の木曜日の夜は、準備に追われて睡眠時間を十分に取ることができませんでした。タイに来て初めてのプレゼンテーションでとても緊張しました。そして、予想していなかった質問が多く来て、上手く答えられなかったものもありました。
第2週目はEquineユニットに行きました。北大の学生、ハンガリーからの学生のアンドゥ君、マレーシアからのインターンシップの学生のローズさんとゾウ君と一緒に学びました。知らなかったのですが、馬はタイではとても身近な存在で、仏教の儀式にも使われるそうです。
毎日色んな馬が病院にやってきて、様々な症例を見ることができました。そして、初めてレーザー治療を見ました。レーザー治療の機器は獣医療用のもので、馬以外にも鳥などの様々な動物種が選択でき、また、神経痛をとるためや傷を早く治すためなど用途も選択できるようになっていました。
金曜日のプレゼンテーションは岡本さんと砂崎さんと一緒にロバの難産後の症例を担当しました。ロバについて血液検査の正常値など調べるのはとても大変でしたが、とても楽しかったです。大塚さんとアンドゥ君のプレゼンテーションは、アンドゥ君が寄生虫の研究室に所属していることもあり、主訴以外の外部寄生虫についても触れられていて興味深く感じると同時に、自分の持っている強みを発揮できていて素晴らしいなと思いました。
第3週目はKampeng Saenから車で40分程度離れたところにあるNong Phoという場所のLarge Animalの診療所に北大生2人とアンドゥ君と一緒に行きました。Nong Phoに行く前にKUの友達や先生たちから、頑張って生き抜くんだ!と言われていたので、どんなひどいところに連れていかれるのだろうかと思っていましたが、想像していたよりも普通でした。食堂やマーケット、コンビニが近くになく、部屋は2段ベッドで、エアコンがなく、シャワーは水の栓しかないというだけでした。
Kampeng Saenに比べると、症例数がとても少なく物足りなさを感じました。大雨の日は一日中、ミーティングルームで待機をしていました。
往診では肉牛の膣脱の症例を見ました。膣の整復は、逸脱した膣が腫れているのと牛が力むのとで、とても大変でした。逸脱した膣に砂糖を塗り込み、浸透圧によって膣のサイズを小さくなるように試みました。私も逸脱した膣を中に押し込むのを一緒に手伝いました。無事に膣を中に入れ込み終わったときには全員が汗だくになっていました。
また、病院にやってきた痙攣を起こして瀕死状態の山羊をみんなで輸液をしたりと看病していた時に、先生がにこにことしながらBrucella positiveと言ってきたことが忘れられません。ブルセラ病は流産などを引き起こす人獣共通感染症で、日本では四類感染症に指定されている危険な病気です。あまりにも嬉しそうに言ってきたので、一瞬、冗談かと思いましたが、その後のすぐに手を洗った方がいいよという言葉で現実に引き戻されました。入念に手を洗いましたが、感染していないか心配です。
第4、5週目はAquaticユニットに行きました。2週間KUの6年生と一緒に学ぶことができてとても楽しかったです。第4週目は特にエビについて、第5週目は金魚について学びました。
日本では解剖と重要疾病に関してさらっとしか習っていなかったので、分からないことだらけでした。初めて聞く単語ばかりで、最初はとても苦労しました。KUの学生は病気だけでなく、水質管理等のマネジメントに関しても学ばなければいけないことに驚きました。養殖業が盛んなタイならではだと思いました。
水質管理の講義では、気を付けることが多くあることを学びました。講義の後、翌日までに溶存酸素(DO)に関してのプレゼンテーションを用意するという宿題が与えられました。準備する時間の少なさに焦りを感じました。KUの学生にとっては、このような宿題は当たり前らしく、すごいなと思いました。何とか作り終えたプレゼンテーションですが、KUの学生のプレゼンテーションの完成度がとても高く、恥ずかしさを覚えました。また、調べたDOの基準値は欧州基準で、熱帯地域のタイには少し当てはまらないものでした。タイでは熱帯という特性から、教科書とは違うことがたくさんあると再度感じました。
何も知らない私たちのために、エビの養殖全体についての講義がありました。そこで、初めてShrimpとPrawnの違いを知りました。Shrimpは海水に生息するエビで、Prawnは淡水に生息するエビです。この講義のおかげで以降の理解がとてもしやすくなりました。
魚の解剖、採材の方法に関しても学びました。私が胸ビレの内側の体表からスクレ―ピングしたものからは、寄生虫が発見でき、KUの学生に褒めてもらうことができ嬉しかったです。
ファームビジットでは、淡水エビ農家と金魚農家に行きました。水質検査をしたり、金魚農家では調子の悪そうな金魚を捕まえて寄生虫を探したりしました。体表に寄生虫が付いている魚は、寄生虫を振り落とすために水面近くをグネグネと泳ぐことが特徴です。また、エラに寄生虫がいる場合は、呼吸をするために水面に集まったり、エアポンプの近くに集まったりします。
金魚パートのプレゼンテーションは、タイの学生と一緒にみんなで作りました。発表の前日には、夜遅くまで残ってみんなで作業しました。当日のプレゼンテーションは朝の9時からスタートして、終わったのは夕方の5時でした。スライド1枚1枚に対して先生からの質問が入り、スムーズに答えられなった場合には答えが出るまで、みんなで議論して考えるということを繰り返しました。プレゼンテーションがすべて終わった時の達成感はすごかったです。
第6週はExotic Animalユニットに行きました。
タイではExotic Animalを手に入れやすく飼う人が多いそうです。また、仏教の教えから傷ついたカメなどを持ってくる人も多いそうです。野生動物が病院に持ち込まれた場合の治療費は寄付で賄っていると聞きました。私は多くの野生動物を救護することができ良い制度であると感じましたが、病院の獣医師の方は、この制度を悪用して自分のペットを野生から保護したと偽って連れてくる飼い主がいたりと良い制度であるとは言えないと言っていました。
動物病院には手のひらサイズのカメからジャコウネコまで種を問わず様々な動物がやってきて、獣医師の方々は迷うことなく対応していてとてもかっこよかったです。中でも闘鶏が多く持ち込まれているように感じました。闘鶏は飛び跳ねて闘うため、肢をよく痛めるそうです。運び込まれる闘鶏のほとんどが肢を痛めたもので、断趾の処置が行われたものもいました。タイでは闘鶏の勝者には多額の賞金が出るためとても大切に扱われているそうです。
また、動物病院では実際のウサギを用いて、ウサギのハンドリングについても学びました。保定や採血の方法を実際に手を動かしながら学ぶことができとてもためになりました。
カピバラの骨折処置の経過観察のためにPrivate zooへ行きました。Private zooと聞いて、想像していたのは私立の動物園でしたが、着いたところは別荘地の中にひっそりとある一般に広く公開されていないお金持ちの趣味として動物を飼育しているところでした。個人の趣味とは思えないほど、ナマケモノやフラミンゴなど色々な動物が飼育されていました。普通の動物園ですら見ることのできないタイに2匹しか飼育されていないワニなど貴重な動物も多くいました。動物以外にもお手伝いさんが何人もいて、どこにでも桁違いのお金持ちは存在するのだなと思いました。このprivate zooの初めての日本人だったらしく、オーナーさんが張り切って案内をしてくれて、エサやりや抱っこをさせてくれ、とても楽しかったです。カピバラの経過も良好でした。
Raptor clinicでは、猛禽類のハンドリングに関して学びました。このクリニックには自動車事故などで負傷した野生の個体が運ばれてきます。なので、片方の翼が欠損している個体が多くいました。鳥の世界にもBody Condition Score(BCS)があることを知りました。鳥のBCSは竜骨突起の触知具合を基に3段階評価します。ハンドリングではイタリアからのインターンシップの学生のノアさんが手伝ってくれて、とても心強かったです。
Elephant clinicでは、ノアさんと一緒に野生動物の吹き矢による鎮静について学びました。残念ながら、入院しているゾウはいませんでした。吹き矢に用いられるシリンジおよび注射針は特殊な構造をしていました。シリンジは空気を封入・密閉できるようになっていて、針の先端は閉じている代わりに側面に穴が開いていて、針にゴムマットを刺しその部分を覆うことで、動物に針が刺さった時にゴムが移動し、シリンジの密閉状態が解除され、封入されていた空気が勢いよく解放されることで、動物の体内に薬液が注入されるという仕組みなっていました。吹き矢の他にも麻酔銃も試すことができました。吹き矢はとても楽しく、先生と競争をしたりして遊びました。
タイの人たちはみんな優しく、楽しく過ごせています。KUの6年生はとても忙しいにも関わらず、マーケットに連れて行ってくれたりしてくれます。タイの友達のおかげで、今の生活が成り立っていると感じます。Large Animalユニットの先生方にお菓子をもらったり、ピーミチには仕事終わりにショッピングモールや屋台に連れて行ったりしてもらいました。また、北大の2人ともとても仲良くなれました。一緒にマーケットに行ったり、休日には一緒に旅行にも行ったりしました。他大学の学生とここまで仲良くなれるとは思っていませんでした。タイに来てから色々な出会いがあり、関わってくれるみんなにはとても感謝しています。勉強と遊びを両立させながら残りの期間も過ごしていきたいです。