フィンドレー大学 ベーシック・アニマルハンドリングプログラム2022報告書(鶴田さん)
掲載日:2023.10.31
アメリカ・フィンドレー大学ベーシック・アニマルハンドリングプログラム2023活動報告書
2023年3月14日~4月4日
獣医学類2年
鶴田紫
はじめに
留学案内のメールが送られた2年後期中ごろ、私は悩んでいた。大学生活が上手くいかず、将来への漠然とした不安や心の不安定さから勉強や部活動に打ち込めずにいた。そんな時、母からの勧めでこのプログラムのことを知り、獣医師を志す原点となった人がアメリカで働く獣医師であるため、自分のなりたいものについて改めて向き合いたいという気持ちと、多くの動物との実習経験ができることに魅力を感じて留学を決意した。以下にその活動成果を報告すると共に、研修への参加を考えている学生の助けになれば幸いである。
活動報告
まずプログラムの内容について述べる。平日は午前中に乗馬のクラスの学生と一緒に馬房の掃除と、乗馬やグルーミングアセスメントの準備、それに加えてウエスタンファームでは農場マネージャーの先生やTAの学生たちと馬のハンドリングや投薬について学んだ。午後はプレ獣医クラスの学生たちと農場での実習に2コマ参加し、ウマのハンドリング、ウシ・ブタ・ヒツジ・ヤギの去勢や除角、各種注射などを学んだ。放課後は、フィンドレー大学でお世話になった川村先生・青木先生の協力のもと、地域の動物病院や動物福祉施設、ホースセラピーのボランティア施設などの動物に関わる施設を訪問し、ボランティア体験や施設の方からお話を伺った。休日はホームステイをしたりフィンドレー大学でのイベントに参加したり、動物園や美術館、ショッピングモールを訪れたりと、様々な経験をした。
このプログラムのなかで特に多くの時間を過ごした場所は農場である。フィンドレー大学には、計三つの農場があり、ウエスタンファームとイングリッシュファームと呼ばれる、乗馬の様式によって分けられた馬の農場と、おもにプレ獣医クラスの学生が使うアニマルサイエンスファームと呼ばれるウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、リャマ、アルパカがいる農場がある。
私たちはウエスタンファームとイングリッシュファームを毎朝日替わりで交互に訪れ、それぞれ乗馬クラスの学生とペアを組んで活動した。乗馬クラスの学生は女子生徒が大多数を占めており、学年も自分と同じ2年生であったためお互いに親近感を持つことができたが、初めは馬が近くにいることに緊張し、英語もあまり聞き取れず、見様見真似で作業を手伝うことに必死であった。しかし、日が経つにつれて作業にも慣れ、毎回ペアが変わるため見知った顔が増えてきたこともあり、作業中に雑談をしたり、学生から馬との接し方を教えてもらったりと充実した時間を過ごせるようになっていった。この成長には、農場を問わず、乗馬クラスの学生たちや農場マネージャーの方々の優しさが大いに貢献していると思う。ペアに振り分けられたときに笑顔で挨拶をしてくれたことや、英語が聞き取りやすいように配慮してくれたこと、たどたどしい質問にも気さくに答えてくれたことにとても助けられた。中には自分の名前を覚えて、農場内ですれ違うときに声をかけてくれる学生もおり嬉しかった。さらに、一緒に作業する時間を通して学生たちの馬への愛に触れ、自分も馬を好きになった。留学前に実際に触れ合う機会は数える程度しかなかったため、今回の留学でたくさんの馬と触れ合うことができたのは自分の中で大きな収穫だと感じる。馬のハンドリングについては主にウエスタンファームで学んだ。馬の種類、馬への近づき方から、頭絡の付け方、手綱の引き方、日々の世話に必要なことなどを一から教わった。このおかげで馬と接するのがより楽しめるようになったと感じる。加えてアニマルサイエンスの授業でもウエスタンファームの一角で、カーンズ先生やティーチングアシスタント(以下TA)の学生と一緒に馬の頭絡の付け方、筋肉注射、採血、足ラップの巻き方等を学んだ。この授業は一コマ50分で、毎日2,3個の項目に分けて実習を行うため、作業の仕方を一つ一つ丁寧に学ぶことができ、時間があればこれまで学んだことの復習もさせてもらえるので、技術を身に付けやすいと感じた。
アニマルサイエンスファームではカーンズ先生の指導の下、去勢やワクチン接種、耳標付け、除角などを行った。どれも初めての体験であり、毎回ワクワクした気持ちで参加していた。実習は、教室での簡単な内容説明の後に実際に畜舎に出て作業を開始する流れであったが、私達は先にTAの学生とともに実習で使用する薬剤を注射器に移したり、器材を運んだりする手伝いをした。少人数に分かれて実習をおこなうが、その間も先生やTAの学生が盛んに学生たちと交流しており、質問もしやすく、楽しい雰囲気のなか学ぶことができた。実習の最終回に、アルパカたちと散歩したことが一番の楽しい思い出だ。
放課後や休日に訪問した場所の中で、特に印象に残っているのは、フィンドレー大学の近くにある動物病院である。予定していた先生は急患が入ったためお話を伺うことはかなわなかったが、親切にも別の先生が業務終了後に対応してくださった。先生のお話の中では獣医師として働くために心がけていることや、良い動物病院とはどんな病院か、ペットの安楽死についてどう考えているかなど、長年の経験をもとにした大変興味深いお話を聞くことができた。コミュニケーションを大切にする、自分の仕事に誇りを持つなどの考え方は国を超えて大切にされるものであり、その姿勢は自分も将来の目標としたいと強く感じた。また、今回訪問した方々は職種を問わず、本当に好きなことを仕事にしている人たちばかりで、初めてテレビで獣医さんを見たときの尊敬と憧れの気持ちが思い起こされ、お話を聞くことができ、心から光栄に思う。
放課後や休日に関して、同じプログラムを受けた5人とは別に、酪農学園大学の異なる留学プログラムでフィンドレー大学に来ている加藤さんと、今年5月に酪農学園大学へ留学する予定の三人の学生と行動を共にすることが多くあった。4人とはカツカレーを一緒に作って食べ、その後フィンドレー大学内で開催されたコンサートに参加したり、一緒に動物園へ訪れたり、近くの州立大学で行われたチェリーブロッサムフェスティバルで日本文化に触れたりと多くの思い出を作ることができた。予定していたイベント以外にも、ステーキナイト(私は体調を崩してしまったためステーキを食べることはできなかった)や友人との夕食に誘ってもらい、親交を深めることができた。
ホームステイ先はミシガン州グラスレイクで、5月に酪農学園大学へ来る予定のひとりであるKylinのご実家へ泊めていただいた。町を案内してもらったり、家でハンバーガーを作って食べたりと楽しい時間を過ごした。ホームステイは第1週目の週末であったため、大変緊張して臨んだが、ホストファミリーの暖かい人柄に触れ、充実したホームステイにすることができた。
生活
宿泊施設や食事など、3週間の生活について述べる。私達は男子1名、女子4名であったため、男女分かれてフィンドレー大学内のゲストハウスへ宿泊した。私は女子であるため、女子のゲストハウスについて述べる。ゲストハウスにはトイレ、シャワー、洗濯機、冷蔵庫、食器や調理器具がそろっており、消耗品も予備が多く用意されていたため、生活に困ることはなかった。部屋は3つあり、2人の部屋が1つと1人の部屋2つに分けて使用した。平日は朝が早いため、あらかじめスーパーで購入したものを皆で分けて食べた。おもにパン、ハム、サラダ、フルーツ、ヨーグルトなどを食べていた。食材は女子ハウスに置かれ、出発前に男子メンバーが合流し、朝食をとってから、全員でシャトルバスへ移動していた。昼食はヘンダーソンと呼ばれる学食を利用し、夕飯は学食・外食と日によって変わった。週に一度青木先生と買い物へ行き、必要な食材を購入した。お金に関しては、個人的に購入するもの以外現金を使う機会はなかった。飲み物に関しても、ペットボトルの水を共同購入させてもらっていたので、事足りていた。食事に関しては、個人的には飽きずに色々と楽しむことができた。特にフルーツが手軽でおいしいものばかりだったのと、サラダのドレッシングが常に6種類はおいてあったので、日替わりで楽しんだ。その中でも、ランチドレッシングという、シーザードレッシングに似たものが人気で、サラダ以外にチキンやハンバーガーにまでかけていたことが衝撃的だった。楽しみにしていたハンバーガーも何度か食べることができ、どれもお肉がジューシーでおいしかったため満足できた。滞在中、聖パトリックデーと重なったため、緑色の服を着たり緑色の装飾をしたりと大学内や街全体が緑色になり、見ていて楽しかった。私はシェアハウスや寮に住んだ経験もなく、事前研修で数回あっただけのほぼ初対面の人達との共同生活を心配していたが、同じ時間を共有し苦楽を共にしていく中で、メンバーとしっかり打ち解けることができたため、共同生活も楽しむことができた。
苦労したこと・アドバイス
留学中大変だと感じたことについて述べる。特に次年度以降に留学を考えている方は参考にしていただきたい。まず英語である。自分は英語にあまり自信がなかったため、事前に英語音声の動画を視聴するなど対策をとったが、期間が短かったためあまり効果は感じられなかった。渡米後1,2週間すると耳が慣れてきて細かい文法や単語がわからなくても、知っている単語がいくつかあれば意味は理解できるようになったが、慣れるまでつらい思いをした。日常英会話でよく使われるフレーズ、特に返事の仕方や感謝を伝えるフレーズはいくつか覚えておくと、心苦しい思いをせずに済む。次に体力面である。朝早く、夜も日によっては遅くなってしまうため、空き時間を見つけ次第休むことをお勧めする。プログラムを最大限楽しむためにも、体調管理は極めて重要である。私は気温の変化についていけなかったことと、上手く休めなかったために風邪をひいてしまい、1日午後の授業を受けることができなかった。持ち物としては、汚れてもいいジャージ、トレーナー、パーカーやジャンパーなどの羽織れる上着を多めに持っていくと良いと思う。加えて、朝はすごく冷えるので、中に着るヒートテックやタイツがあると少し楽になる。私服は2,3着もあれば十分だと感じた。私の場合、週末以外ほとんど実習用の服を着ていた。学長にお会いする際のフォーマルな服装も必要だ。
全体の感想
この留学が自分のやりたいことについて深く考えるきっかけになったと感じる。毎日動物に触れ、動物と関わる様々な仕事に就いておられる方々の話を聞き、また実際の様子を自分の目で見ることで、ここには到底書ききれないほど多くの学びがあった。また、同じ獣医を目指しているフィンドレー大学の学生たちの、夢のために努力する姿を目の当たりにし、大いに勇気づけられた3週間であった。総合して、今回の留学で自分の理想とする獣医師の姿がより明確になったと言える。また、様々な人たちとの交流を経て、自分を発信していくことの楽しさ、自らすすんで活動したときの達成感を得ることができた。
英語力に関しては、ペラペラにはなることができなかったが、英語を使うことへの躊躇いはだいぶ薄れたように感じる。また、英語学習への意識は確実に変化した。以前は常に英語から日本語訳してから理解しようとしていたが、実際に使ってみるとそんなことをしている暇はないので、英語を英語として理解した方が速くて楽であると感じた。実際に人の目を見ながら会話したこと、意思疎通ができたときの感動が英語学習のモチベーションの向上につながっていると感じる。
経験したことのすべてが新鮮で、非常に有意義な時間となったことを誇りに思うと共に、すばらしい環境の中勉強したことを今後の大学生活の糧としたい。
最後に、もしこのプログラムでの留学を迷っている人がいて、金銭面で許されるなら、是非とも参加を勧める。期間はたったの3週間だが、人生の中で最も濃密な経験になるだろうし、自分の成長の足掛かりになることは間違いない。なるべく早く、行動へ移すべきだ。
謝辞
今回のプログラムにおいて、大変お世話になった国際交流課の中道さん、フィンドレー大学の川村先生、青木先生、カーンズ先生をはじめ人生の宝となる経験をさせていただいた各施設の方々、運転中たくさんお喋りをして私たちの緊張をほぐしてくれた運転手のポールさん、そしてフィンドレー大学で出会った学生たち、関わってくださったすべての方々に深く感謝申し上げます。