フィンドレー大学 ベーシック・アニマルハンドリングプログラム2022報告書(川瀬さん)

掲載日:2023.10.31

2023 Findlay Basic Animal Handling Program
循環農学類2年 川瀬千尋

私は2023年3月14日から4月5日の約3週間に渡って、アメリカ合衆国オハイオ州フィンドレー地域にあるフィンドレー大学でベーシックアニマルハンドリングプログラムに参加してきました。このプログラムに参加した理由としては将来的に馬に関わる仕事に就きたいと考えているからです。そんな私にとって馬のハンドリングや治療、western馬術について学ぶことができとても有意義な時間となりました。
私たちは3月14日にデトロイト行きの飛行機に乗り現地に到着したのは日本時間の翌日の事で約12時間のフライトでしたが無事現地に到着し、空港のエントランスでは大学のHeatherさんにとても温かく出迎えてもらいました。翌日、川村先生に大学の案内をして頂きフィンドレー大学の印象としては酪農学園大学よりも大きく構内がとても広大でした。フィンドレー大学はリスと遭遇することが多く構内を歩いていてもすぐに至近距離で会うことが出来ます。フィンドレーの気候としては北海道の11月下旬の気温とよく似ていますが、風がとても冷たく風が吹く日は特に身体の芯から寒さを感じました。学校案内をして頂いた後私たちは日本語プログラムハウスでwelcome pizza partyを開いていただき、そこで私たちは初めて酪農学園大学に派遣予定のCaillie,Kylin,Sierraの3人に出会うことが出来ました。私たちはまだ時差ボケが治っていなかったのですがそんな中3人が会話を盛り上げてくれこれから始まる3週間のプログラムに心躍らせました。

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フィンドレー大学のシンボルの前で

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フィンドレー大学のアーチ前で

私たちの一日の主な活動について紹介します。朝5時に起床し、6時30分のシャトルバスに乗ってEnglish FarmもしくはWestern Farmに7時に到着します。English FarmとWestern Farmで学ぶことは大体が同じですが、やはり同じ馬でも競技が違うためか違う点も多くありました。Farmではまず1日のパートナーを決め、そのパートナーが行っている役職について詳しく学びます。役割の例としては水桶の水足し、ほうき、飼いを行います。Western Farmではほかにヘイと呼ばれるチモシー草と乾草のルー草の二種類を与える役割も行いました。ちなみにEnglish Farmではチモシー草のみ与えているそうです。水やりのホースは日本の牧場などで使っているホースとは違い先端を捻ると、水が出てくる仕組みになっていて水を床に零さない仕組みになっているそうです。ほうきは日本と変わらず行っていましたが、いつも清潔さを保つためにチリなどを見つけた時も掃くよう心掛けているそうです。飼いの種類や与え方は日本と大きく異なっていました。日本ではふやかしたペレットやエン麦、優駿など栄養価を重視したものが主流ですが、アメリカ合衆国の場合はEKと呼ばれる飼いを中心に与えるそうです。English Farmではその他にもふやかす必要のないペレット、砂糖などブドウ糖が混ざった餌も与えます。English Farmでは飼いを与えると同時に投薬を行います。薬を飼いに混ぜて与えていました。その時に砂糖などブドウ糖が配合された餌とまぜ苦みをごまかすそうです。Western Farmでも投薬を行っていましたが薬を甘みのある蜜と同時にシリンダーに入れ食後に与えていました。飼いを与える時間も日本とは大きく異なっていました。日本では疝痛を防止するために運動後に飼いを与えるか消化時間を考えて与えていますが、アメリカ合衆国では、運動前に飼いや投薬を済ませその後運動を行うそうです。その方が馬にとって長時間の運動時に馬がストレスを感じにくいなどの利点があるからだそうです。パートナーの役割が終わったあと馬房の掃除を毎日どちらのFarmも行うそうです。馬房に使っているのは蹄さ腐乱を防ぐために、おがくずを使っているそうです。馬房掃除はチックホークとほうきを使って行い、ボロなど汚れた個所を中心に掃除していきます。馬房掃除が終わった後、馬のグルーミングを丁寧に行いその後馬装しアリーナで運動を行います。English FarmやWestern Farmの馬たちは2歳や3歳の若い馬が多く大体1人あたり1頭の若い馬と1頭の調教が完成している少し歳の取った馬を担当するそうです。日本では2,3歳の馬の調教を見る機会がめったにないのでとても貴重な経験になりました。Farmでの授業は10時まで行いシャトルバスで迎えに来てもらい、Hendarsonで食事をとったのちシャトルバスに乗りこみ午後の授業へと向かいます。
Western Farmでの授業の場合9時に一度集合し、馬に関する事を学んでいきます。馬の色や歯、蹄、筋肉の名前そして獣医さんが診察に来た際の馬の見せ方などを学びます。毎週金曜日にはサプリメントの筋肉注射の練習を行いました。私が特に印象に残ったことがアメリカ合衆国には蹄葉炎専用の蹄鉄があるということです。私は今まで何度か日本で蹄葉炎の馬を見たことがありましたがどの馬もそのような蹄鉄を履いてはいませんでした。その蹄鉄は普段のものよりもさらに重く厚さがありました。重さと厚みを肢に加えることでより早い回復などが期待できるそうです。馬は一度蹄葉炎になると罹りつづけるのでこの方法はとても画期的な方法だと思いました。

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Western Farmの馬と

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お世話になったWestern Farmの皆さんと

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蹄葉炎専用の蹄鉄だそうです

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調教審査の様子

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障害馬術競技での様子

午後の授業はDr.Karn先生の授業を2つ行いました。1つ目の授業は一時半に開始します。その授業は馬のハンドリングの授業で主に筋肉注射、静脈注射の練習そして馬がケガした際の肢巻きの巻き方、バンテージの巻き方を練習しました。2つ目の授業は2時半に始まり主に中小家畜のハンドリングの授業で羊や豚、山羊だけでなくアンガス牛やアルパカ・リャマも扱います。内容としては基本的に去勢、角の除角などを行います。私は獣医志望ではないため詳しくはよくわかりませんが一緒にプログラムに参加していた獣医学類の中尾さんは日本のやり方と少し違っていると言っていました。また、実際に取り出した精巣を確認することができ私は写真でしかまだ見たことがなかったので、どこがどれでなどを教えていただき貴重な経験となりました。以上の事が基本的な一日の生活風景ですが、私たちは先生方のご厚意によりその他にも多くの事を経験させてもらう機会をいただきました。

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山羊での去勢授業

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羊の耳標付けの授業

次にその他に経験したことを紹介していきたいと思います。
はじめに交換留学を行う予定の3人のうち2人の実家にホームステイさせて頂きました。私はsierraの実家に泊めていただきアメリカ合衆国の食事やオハイオ州立大学などに連れて行ってもらいました。
私たちは学外で様々な方とお話をさせていただく機会をいただきました。
はじめにChallenged Championというホースセラピーを行っているAngieさんとoliviaさんにホースセラピーのボランティアをさせていただきました。私自身ホースセラピーについては知ってはいたものの実際に見る機会がなかったのでとても興奮しました。ホースセラピーに参加している方々は60代から10代など様々な方々が参加していましたがどなたも馬と触れ合うことを楽しみにされており、これこそが動物と人が心を通わせることだと思いました。また、その方が持っている特性の度合いによって鞍の厚さを変えており症状が思い方ほど馬と体の距離が近い鞍を使うなど工夫がなされており、できたことひとつひとつを褒めていくなどの工夫がなされていました。これらにより、参加者の方々は馬に心を開き初めて会った私たちにも気軽に接してくださり私たちも人と動物が心を通わせるということが身をもって体験することができました。
次に私たちはジャージー牛のみを飼育している酪農家の方にお話を聞きに行きました。そこでは100%人工授精で子牛を生み牛乳を生産していました。私も日本で酪農家を訪れたことはありますが、100%人工授精という酪農家は初めてでしたし、とても驚きました。ここで出てきた牛の糞尿はたい肥として牛の穀物を育てるために使われ資料を新しく生産するという流れができているそうです。
Toled zooでのバックヤードツアーは私たちだけでなく交換留学予定の3人も一緒に行きました。Toled zooでは動物園の獣医さんと飼育員さんにお会いし、お話を聞いてきました。Toled zooの動物病院の塔では外から菌を持ち込まないための消毒層や動物が保有している菌を他の動物に感染させないための工夫、どんな動物にも対応することのできる薬を常備し普段から備えられていました。例えば、シマウマが常在菌として保有している菌はシロクマを殺してしまうほどの強さらしく、そういった場合には接触しないための工夫などがとられるそうです。また、どの大きさにも対応することのできるレントゲンや処置室、もしも動物が亡くなってしまったときになぜ亡くなったのか解明するための病理解剖室がありました。そして、今後の研究のために病理切片を保存するそうです。その後私たちは動物園の飼育員さんと水族館の飼育員さんにお話を聞きました。動物園の飼育施設では今後展示予定の爬虫類や餌などを見学させてもらいました。中には危険動物に指定されているものも多く食事などを与える際には厳重の注意を払うため防御マスクなどで顔や皮膚などを覆うそうです。水族館の飼育施設では、水槽のろ過設備、海水の供給設備、餌やり、稚魚の育成などを見学させてもらいました。ここで働く獣医さんや飼育員さんは動物を見せるだけでなく動物の健康や保全そして適切な管理に力を注いでおり、動物園での大変さはもちろん動物への情熱が垣間見ることができ普段観ることのできない良い経験になったと思います。

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Angieさんと

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ホースセラピーの様子

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搾乳の様子

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飼育員さんとの見学の様子

私たちは動物病院に行く機会があり、二カ所の動物病院に行かせてもらいました。一カ所目はフィンドレー大学付属の大学病院で最新の器具が多く置かれていました。ここの病院の特徴としては動物一頭に対してのカウンセリングの時間が約30分と他の病院より多くカウンセリングに時間を当てているそうです。これはカウンセリングでお話をしていると次々に新たに症状が見えてくることがあるからだそうです。また難病を患ってしまった患者には今後の生活をどんなふうに過ごしていくか獣医師的目線でアドバイスしているそうです。二カ所目の動物病院は大動物からエキゾチックアニマルまでを診察している病院でした。この病院では他の病院との差別化を図るために常に最新機器を導入し難しい症例でも治せるようにし、外から病原菌を持ち込まないために徹底した隔離方法を行っていた。また、病院内に入り込まない大動物は院外で治療を行ったりしているそうです。アメリカ合衆国の動物病院は基本的に歯などのケア、ホワイトニングを主としており、日本とは違い去勢などは動物病院以外の動物愛護団体などが行っているそうです。薬に至っても院内で処方するのではなく人間の薬局に動物用の薬品が常備してあるのがほとんどで動物病院での競争が激しくなってきているそうです。
Humane Societyという動物愛護団体の見学に行かせてもらいました。そこでは犬猫の保護はもちろんのこと、動物のレスキューを行っていました。この施設では保護した犬猫の去勢を行いワクチンなども行っていました。それだけでなく馬をオーナーから虐待を守る取り組みや事件があった際に動物が関わっていた場合は動物のレスキューに赴き、動物を保護するそうです。虐待が行われていても裁判所が飼育を続けることを認めればそのために飼い主にアドバイスなどを行っていました。ここでは、ただ単に動物を保護し譲渡するだけでなくきちんとした飼育が行われているかなどの監視、レスキューと日本動物保護団体とは大きく違っていてとても刺激になったと思います。
私たちはVeterinary Social Workをお仕事にされている方にお話を伺いました。Veterinary Social Workの主な仕事内容としては獣医師の精神的な面を支えることや動物病院で安楽死をする際に家族へのサポートを行うことだそうです。獣医師という仕事は悩みがつきものらしく特に患者が経済的・金銭的な理由で訴えられた際や、万全の態勢で治療を行ったにも関わらず患者が亡くなってしまった際に訴訟などで訴えられ、精神的に辛くなり獣医師が亡くなるケースも多いそうです。だからこそ、Veterinary Social Workという職業が必要であり少しでも悩みを打ち明けられる存在が必要だそうです。また、安楽死などによって患者が亡くなった場合遺族はペットロスなどによる苦痛とどう向き合っていくかが重要でありそこに必要になってくるのが自分たちの気持ちを理解してくれる存在だそうです。ペットロスの問題は深刻であり場合によってはやり場のない怒りが獣医師に向くこともあるそうです。だからこそカウンセリングを通して気持ちの整理をつけていく必要があるそうです。日本にはこういった職業はないらしいが、今後ペットの高齢化や飼い主の高齢化など向き合っていかなければならない課題が多いとき、こういった職業も必要になってくるのではないかと思いました。

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獣医師の先生と

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最新の機器

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施設の方と

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施設の様子

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Veterinary Social Workの方と

そして私たちはホースレスキューの見学に行かせてもらいました。そこでは、調教に失敗し手に負えなくなった、適切な管理がなされていない、オーナーから虐待を受けていたなどの馬や家畜をレスキューし保護することを主に行っていました。ここでは馬はもちろんのこと調教の難しいロバやラバ、ミニチュアホース、羊が飼育されていました。特にラバやロバは調教が難しく、馬とは逆のやり方なので調教も難しくオーナーが飼育を放棄することが多いそうです。そんな子たちでも新しいオーナーが見つかるように再調教をし、健康的な活動ができるような状態に戻すところまで行い施設に戻ってくることの無いように、新しいオーナーがどんな人物か知ってから譲渡するそうです。日本ではケガなど引退した競走馬がクラブに行くケースは多いが元競走馬ということもあり、調教がうまくいかず行き場を失う事やそれ以外でも肉になることなど、せっかく生まれてきたのにも関わらず幸せな余生を迎えることができない馬たちがほとんどです。獣医医療の進歩と共に私たちはこれから迎える動物たちの余生に関しても目を向け考えていかなければならないと感じました。

 最後に私はこのフィンドレー大学でのベーシックアニマルハンドリングプログラムに参加したことによって英語のスキルはもちろんのこと、自分にとってより多くの知識を得ることのできる貴重な経験になったと思いました。このフィンドレー大学ベーシックアニマルハンドリングプログラムで得た知識を今後の学校生活などで生かしていきたいと思います。

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ホースレスキューを行っている方たちと

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最終日に行ったアイスパーティーの様子