2022年度 タイ・カセサート大学獣医学部短期研修プログラム 報告書(田原口さん)
掲載日:2023.04.05
タイ短期研修を終えて
獣医学群獣医学類6年 田原口 咲弥 (Saya Taharaguchi)
去年、叶わなかったカセサート大学訪問がついに叶いました。去年のオンライン研修でさらに現地に行きたい気持ちが高まりました。オンラインでタイの学生と話す機会がいくらあっても、現地ではどんな生活をしているのか、どんな環境で勉強しているのか想像でしかありません。実際に学生や先生と会って、話して、自分が何を感じるのかとても興味がありました。また、動物の感染症について、日本とタイではどのように異なるのか、どのような疾病が問題になっているのか、勉強したいという目的もありました。
私たちは2/24〜3/3の1週間をカンペンセンキャンパスで過ごしました。このキャンパスはバンコクから車で1時間半ほど北に行ったところにある長閑な自然が広がる場所です。多くの牛、馬、羊などの家畜や、鷲、象などの野生動物がいて、学生のために飼われていたり、治療のために入院していました。
まず、1日目と2日目はエビとコイ、金魚の講義を受けました。本学でも「魚病学」として授業がありますが、実習はなく、私は教科書の知識をかじっている程度でした。重要な疾病は聞いたことがあり理解することができましたが、エビやコイの生理学や解剖学、寄生虫については非常に詳しく、知らないことが多かったです。日本とは異なる授業内容で、知識が豊富になりました。実際にエビやコイの農場に行き、農場の形態や成長途中の個体を見ることができました。1番印象に残っているのは、エビの餌となるプランクトンが豊富に含まれる水を輸出入していることでした。家畜の飼料と同じような取引がエビの世界でも行われていることを初めて知りました。また、今回コイの手術は動画でのみ見ることができましたが、いつか実際に施術の現場に立ち会ってみたいなと思いました。
3,4日目は感染病理分野の講義を受けました。キャンパス内にはとても立派な検査棟があり、ウイルスや細菌などの検査が一通りできる施設でした。私たちは豚のウイルスのリアルタイムPCRと組織免疫抗体法(IHC)を実際に行いました。行った実験自体は大学の研究室でやっていることに似ていたので手が動かしやすかったですが、説明されたり質問するときに英語での器具や動作をどう表現するのかわからず苦労しました。いつもゼミの先生からプロトコルは英語で作りなさいと言われていたことを思い出して、ゼミに入りたての私に喝を入れたくなりました。院生の方が非常に丁寧に紙に書きながら説明してくださり、一つ一つの作業を確認しながらできました。このまま獣医師になるのは格好が悪いので病気の名前や検査名は英語で説明できるようになろうと思いました。
5日目は大学病院に行き、エキゾチック動物の診療を見学させてもらいました。診療室に入るなりカピバラやオウム、ハト、カメ、アヒルなどたくさんのエキゾチック動物が入院していました。それぞれ交通事故や野生から拾われて病院にやってくるそうです。診療の合間には飼われているウサギで保定や体表検査の仕方、過長前歯の切断をやらせてもらいました。その診療科にインターンできていた6年生と話せたのが嬉しかったです。タイでは5年生で獣医師の免許が取れるので、私がまだ免許を持っていないことにとても驚いていました。午後には鷲と象の検診に同行しました。どちらも暴れたら一瞬で手に負えなくなる動物なので私は緊張感を常に持っていましたが、緊張が彼らに伝わったのか、象は気分を損ねて遠くの敷地に走って逃げてしまいました。先生もあんなに走る象を初めて見たと言っていたので貴重な場面を見ることができたのかなと思う反面、オーナーさんと象には申し訳ない気持ちでいっぱいでした。エキゾチック動物のハンドリングは飼い慣らされた家畜やペットに比べ難しいですが、適切な治療や処置をするためには不可欠なことです。今回はそれぞれの動物の保定の仕方を直に見てやってみることができて本当に良い体験となりました。
次に3日間の休日を挟んでバンケンキャンパスに向かいました。このキャンパスはバンコクの中心街から電車で20分くらいです。キャンパス内にカフェがたくさんあったり、キャンパスをすぐ出たところにレストランが並んでいたり、人がたくさんいてどこもかしこも都会の雰囲気でした。
1日目は小動物の血液検査と病理解剖について講義を受けました。血液検査は主に血液塗沫を顕微鏡で観察したときに見える血球の種類と血液感染の寄生虫の観察をしました。タイは熱帯地域なので蚊やアブなどの媒介動物が非常に多く、血液内寄生虫が発生しやすいそうです。そのため、感染するのは赤血球か白血球か、血球の中か外か、詳しく判断し、寄生虫の同定を行うそうです。写真でしか見たことのない寄生虫の血液塗沫をたくさん見られたし、寄生虫の同定の仕方も詳しく教えていただきました。午後には死亡犬の解剖を見学させてもらいました。犬の解剖を見られるだけでも貴重な体験だったのにさらにその犬は銃弾を撃たれて死亡している、というという特殊な症例でした。死亡してから少し時間が経っていたようで匂いがきつかったのと初めてちゃんと見る犬の解剖で一瞬記憶が飛びそうになりましたが、なんとか耐えることができました。解剖の時間自体はとても短時間でしたが、一生忘れられない光景でした。
そしていよいよ研修最終日はプレゼンテーションでした。各自作成したパワーポイントを英語で1人ずつ発表しました。カンペンセンキャンパスの先生方がオンラインで閲覧していたので緊張しましたが、なんとか終えることができました。先生方はとても優しくて、もっと勉強したいならいつでも待ってるよと言ってくれました。また勉強しに戻ってきたいと心から思いました。
このような日程で研修を終えましたが、講義以外にも休みの日にはアユタヤやナイトマーケット、チャトチャックなどの観光地にも連れてっていただきました。タイの学生さんはとても積極的にお出かけの提案をしてくれたり、ご飯に連れて行ってくれたので、2週間毎日が充実していました。本当に楽しかったです。また、タイフードも色々なものに挑戦することができました。なかなか刺激的な食べ物が多くて口がヒリヒリすることも多々ありましたが、現地の人がよく食べる辛さレベルを知ることができてよかったです。私には絶対に挑戦できない辛さでした。それに対して、スイーツはとても甘くて大好きな味ばかりでした。ロティというクレープみたいなお菓子はわたしのお気に入りです。
2週間、毎日が充実していて、とても有意義でした。獣医学のみならず、お寺にもたくさん連れて行ってもらい、タイの文化を勉強できました。一番楽しかったのは、同じ獣医学部で学ぶタイの学生と英語でコミュニケーションを取れたことです。毎日たくさん話したので、英語を話すことに全く抵抗がなくなりました。伝えられなくて黙ってしまうのではなくてたくさん質問したり単語だけでも言ってみる、ということが大事だと思いました。私はすぐに獣医師として働き始めますが、必ずどこかのタイミングで留学すると心に決めました。本当に学生のうちに行くことができて良かったです。機会をくださった先生方、国際交流課の皆さん、関係者の方々感謝いたします。