2022年度 海外農業研修サポートプログラム  報告書 (島本さん)

掲載日:2023.03.31

海外農場研修サポートプログラム 報告書

農食環境学群 循環農学類3年 島本るり(Ruri Shimamoto)

私は2023年2月5日から3月13日の38日間、カナダのアルバータ州WarnerにあるDriland Feedersという肉牛肥育企業で実習を行いました。
本研修に参加を決めた理由は、私は将来地元である大阪で農業高校の教師を目指しており生徒に可能性を与えられる教師になるために、まず自分自身が沢山の経験を積んで視野を広げたいと思ったからです。
留学自体は大学1年生の頃から考えており、コロナウイルスの規制が緩和され留学プログラムが行われると知り本研修に参加を決めました。

ホームステイ先はDriland Feedersの経営者であるJacobさんのご自宅にお邪魔させていただきました。妻のCarolynさんと娘のElissaの3人暮らしで息子のDallasと娘のJessieは家を出て離れた場所で暮らしています。自宅はRaymondにあり、農場からは車で20分ほどかかります。
肉牛の企業ということもあり、毎日の食事には必ず牛肉が出てきました。アルバータビーフは和牛と違い脂肪交雑が少なく、赤身で柔らかな肉質なのでとてもあっさりしていて食べやすかったです。

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アルバータビーフのステーキ

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ホームステイ先のお家

この農場では約16500頭の肉牛を飼育しており、主な品種はブラックアンガス、ブラウンアンガス、レッドアンガス、シャロレー、ホルスタイン(雄)、F1(アンガス種とシャロレー種の掛け合わせ)です。
主にアメリカの繁殖農家から1回で約250頭の子牛を導入し、約1200kgまで肥育されます。農場には88個のペンがあり、1つにつき小さいペンでは50頭、大きいペンでは300頭の肉牛がいます。牛1頭あたり約2.5haのスペースが得られるように考えられており、ペンはかなり広いのが特徴的でした。ペンの様子は各ペンの両端に2台の定点カメラが設置されており、オフィスのパソコンから牛の採食の様子が確認できるようになっていました。実際に何回か牛の採食行動について調べるためにカメラを確認させてもらうことがあったのですが、給仕開始の7時から9時までが採食行動の活発なピークでした。
ペンには1から88までの数字が振り当てられており、1番のペンと88番のペンにはエサの給与時間に2時間半ほど差がみられたため、採食のピークにも同等の時間差がみられました。また、1から70番のペンは深夜帯にほとんど採食を行っていませんでしたが、71番以降のペンでは深夜帯の採食行動がよくみられました。これは、71番以降のペンでは1日3回の給仕を2回に抑えているため採食行動に変化が生じていると考えられました。

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フィードロット

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パソコンで採食行動や推移を見ることができる

私が大学で動物の行動学について専門に勉強していることを伝えると、自由に農場を歩かせてもらったり、Jacobさんの友人や知り合いの農家さんの牧場を見学させてもらったりと畜種を問わず様々な牧場を見ることができ、牧場によっても牛の様子は全く違いました。特に印象的だったのはElmSpring farmingという牧場で、この牧場は大きな敷地に100人の従業員が住居エリアで住みながら180頭の乳牛、16000頭の肉豚、鶏を飼育していました。養豚場と養鶏場は日本同様、衛生上の関係で中に入る事は出来ませんでしたが酪農場は驚くほどとても綺麗で広く、乳牛のスペースも十分確保されており悪臭もなく空気も綺麗で動物福祉に配慮されている素晴らしい環境でした。
牛の様子もとてもリラックスして人に対して警戒心なく過ごしていたのがとてもよかったです。牧場主の方から話を聞くことができ、酪農場が綺麗なのは週に2回寝ワラを総入れ替えしているからだと言っていました。

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とても綺麗な牧場でした

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生まれたばかりの赤ちゃん

2月22日、23日は年に1度開催される肉牛の大きなカンファレンスがあり私も参加させてもらいました。今年は20周年の節目の年なのでバンフにあるスプリングスホテルで開催されることになりました。
私たちはカンファレンスの4日前から出発し、ドラムヘラーにあるRoyal Tyrrell Museumに行き、カルガリーでプロのアイスホッケーの試合を観戦したり、バンフのダウンタウンを観光したり、Lake Louiseでスノーボードをしたりとカナダを満喫することができました。このカンファレンスにはアルバータ州の政府指導者や著名人、そして多くの農家や企業等600人以上の人が集まりました。Jacobさんはアルバータ州の肉牛肥育協会の会長なのでオープニングセレモニーで挨拶をしており、改めて凄い人の下で実習ができていることを実感しました。
講演の内容は、アルバータビーフの生産に伴う環境問題や世界への輸出動向についてなど現代の様々な取り組みや問題についてでした。たまに専門用語などが出てくるとうまく聞き取ることが出来なかったので、表やグラフがスクリーンに表示されるととても理解がしやすかったです。また、企業の展示ブースなどがあり沢山の人と話すことができとても良い経験ができました。
話す人みんなが留学に来た事を歓迎してくれ、カナダを楽しんでねと言ってくれてカナダの人はとても親切だと実感しました。
カンファレンスの最終日の夜はオークションも開かれ、とても賑やかで楽しい時間を過ごすことができました。

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カンファレンス会場のホテル

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カンファレンスの様子

3月2日はレスブリッジで開催されたAgExpoにJacobさんと娘のJessieと行きました。この会場は毎年夏頃に肉牛の競りが開催されるらしく、とても大きな会場のため日本で開催されている農業フェスタなどと違い、規模がとても大きく沢山の企業ブースやトラクターなどの農業機械が展示されておりとても見ていて楽しかったです。Jacobさんの知り合いの方とも沢山お会いして話すことができました。また、近隣のレスブリッジ大学のブースもありカナダの農学系大学について知る事ができました。個人的には実際にロボット搾乳機を見る機会が今までにおいてなかったため、最新のロボット搾乳機は見ていてとても興味が湧きました。

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AgExpoの様子

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最新のロボット搾乳機

Jacobさんの農場では、主に肉牛の行動学に関するビデオを見たり、農場でのデータを見せてもらってそこから何が読み取れるのか考えたり、牛の治療を見学したり、農場を歩いて牛の行動を観察したりと、比較的自由に実習を行わせてもらいました。
牛の治療はケガをした牛に抗生物質を投与したり、熱がある牛には解熱剤を投与したりと症状に合わせてうまく薬を投与しており、頸部の下の部分に膿が溜まって切開して排出する際も獣医は呼ばずに自らで手術していたのが日本とは少し違う部分だと感じました。また、日本とは大きく異なるのはホルモンインプラントの投与で日本では投与が禁止されていますが、カナダでは当たり前のように投与されています。インプラントの投与タイミングは肥育前期と後期の2回で専用の注入器を使って耳にインプラントを打ち込みます。そうすることによって徐々にホルモンが作用し肉牛は増体し、肉が多くつきやすくなります。日本では見ることが出来ない経験をすることができました。

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治療の様子

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ホルモンインプラントの投与

この農場で1番印象に残っているのは従業員の方々の牛に対する接し方がとても優しいというところです。特に治療の際には牛は警戒してなかなか思う通りに動いてくれませんが、それでも大声を立てることもなく優しく牛の動きに合わせて誘導していました。
そのため、この農場には特に気性の荒い牛はいませんでした。私に対しても英語が思うように話せなくても会った時には声をかけてくれ、別の場所に行く際には一緒に来る?と聞いてくれました。また、日本語に興味を持ってくれて日本の写真を見せながら日本の文化などについて沢山話すことができました。牧場最後の日にはいつでも帰ってきたくなったら戻っておいでと言ってもらい、とても嬉しかったと同時に沢山の人に恵まれたことを実感しました。

Jacobさん一家も休日には沢山の場所に連れて行ってくれ、カナダを楽しむことが出来ました。特に、家のデッキからオーロラを見ることが出来たのはいい思い出です。オーロラは本来カナダでも北の地域で発生率が高いのですが、まれにこの地域でも綺麗なオーロラを見ることができるそうで、タイミングが合ってよかったです。

また、帰国する日の前週末にはエドモントンまで車で行き北米最大のショッピングモールのウエストエドモントンモールに行きました。Jacobさん一家はお寿司がとても好きで、帰国前には巻き寿司を作ってご馳走しました。作り方をレクチャーしたのですが、皆とても上手く巻くことができて楽しんでもらえたのでとても嬉しかったです。

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1番お世話になったイーサンと

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家のデッキから見たオーロラ

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巻き寿司を皆で作りました

今回、私が留学を通じて1番実感したのは沢山の人の温かさでした。日本から来た私を温かく迎えてくれ、拙い英語でも理解してくれて何回質問しても笑顔で歓迎してくれました。滞在3日目にして英語がうまく聞き取れなかったり、周りに日本人が1人もいないことからホームシックになってしまいましたがホストファミリーが気分転換に美味しいものを食べに連れて行ってくれたり、日本では見たことないボードゲームをして楽しませてくれたお陰で乗り切ることができました。

今回の留学は、アルバータ州議会や北海道アルバータ酪農科学技術交流協会の皆さん、堂地学長、国際交流課の皆さん、受け入れてくださったDriland Feedersの皆さん、そして支えてくださった多くの方々によって実現しました。心から感謝申し上げます。
この素晴らしい経験は今後教師を目指すにあたってしっかりと活かしていきます。
本当にありがとうございました。

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特に人なつきが良かった牛

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農場のアイドルのキティ

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カナダの国技アイスホッケーの試合

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ホストファミリーの方々

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バンフで撮ったカナディアンロッキー

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農場の皆さんと日本のお菓子パーティー