2021年度 野生動物講座「野生動物管理における人間事象(Human Dimension of Wildlife management)」における講演内容の質問に回答します。

掲載日:2021.11.17

2021年10月30日(土)に開催いたしました野生動物講座「野生動物管理における人間事象(Human Dimension of Wildlife management)」にて寄せられた質問について本学教員が回答いたしました。

【質問1】浜中のお話の中で、電気柵が有効ということでしたが、一度市街地に降りて、何かしらのメリットがあり増えてしまったシカを元々居た森林に返してしまうと、キャパオーバーになり森林にも悪影響があるのではないかと思います。林学と野生動物管理に精通される先生としてはどのようにお考えでしょうか

(回答)電気柵や物理柵(金属柵)だけが理由で森林に大きな影響が出るということはありません。
キャパオーバーという状況をどのように表現するかということもありますが「森林からシカが溢れてくる」というようなことは発生しないと思います。一方、シカの生息密度の高い越冬地や道東の多くの地域では、森林の更新(次世代の稚樹が生育して森が若返ること)がシカによってかなり阻害されたり、森林の下層植生(草やササなど)が食いつくされて裸地化してしまっている状況が見られます。ある環境でどれほど動物が生息できるかという指標として「環境収容力」(キャリングキャパシティ)という言葉があり、まさに「キャパシティ」という言葉が使われます。シカによる激害地や過剰な密度になってしまっている地域では、この環境収容力が限界にきているところもあり、すでに森林や下層植生に大きな被害が発生しています。しかしこれは電気柵や物理柵によるものではなく、様々な要因でシカが増加しているということそのものが問題を引き起こしていますから、守るべきところは上手に守り、かつ頭数を何らかの方法で減少させていく必要があります。シカの頭数を減少させるというのは捕獲以外はありません。これはシカにとって可哀想と思われるかもしれませんが、天敵(オオカミ)の絶滅、地球温暖化による小雪、越冬地に適した針葉樹人工林の増加など、多くの要因を人間が作ってきたことなので、将来世代に責任を有する観点から人間が責任を持ってシカを管理し、その結果として共存できる方法を模索する必要があると私は思っています。
回答者:農食環境学群環境共生学類 准教授 立木 靖之

【質問2】クマ、シカを10m以上離すための小道具は開発されないのでしょうか。

(回答)なかなか万能の方法は開発されていないのが現状です。
クマスプレーのようなものもありますが、現在のところ「音や光等で簡単に動物が離れてくれる」ような機器はないのが現状です。クマスプレーは強烈な唐辛子エキススプレーで、クマと取っ組み合いになったような超緊急時のみに利用するものとお考え下さい。ところでカナダでカヌーで旅をした友人に話を聞くと、あちらのアウトドアショップで、ボールペン型の棒の先に火薬の入ったキャップのようなものをつけて、クマや大きな動物に出会ったときはそれを火薬の力で飛ばして「パーン」と音が鳴るという道具が手軽に買えると言われていて調べたことがありました。日本でいうとロケット花火のようなイメージだと思い、これは便利だなと思ったのですが、日本では恐らく法律で認められないのではないかと思います。
答えになっていないかもしれませんが、被害にあう前にこちらから積極的に音などを出して「そもそも動物に出会わない」ようにすることが原則だと思います。土砂災害の予防と同じような考え方です(被害にあう前にそこに住居を建てない、あるいは異変があれば被害が出る前にすぐ逃げるなど)。クマとの遭遇について重要な点は、山だけではなく実は林縁部や防風林なども油断してはいけないということです。「こんなところで」というところで被害にあう事例も多いので「北海道の山林にはどこでもクマやシカがいるんだ」という前提で慎重に行動することが重要です。また、痕跡や気配を正確に判断できるスキルも重要になると思います。これらは私の研究室の学生にも同じように指導しています。
回答者:農食環境学群環境共生学類 准教授 立木 靖之

皆様のご参考になれば幸いです。今後とも本学の市民公開講座を何卒よろしくお願いいたします。