2020年度 家庭菜園講座「自宅の菜園土壌の健康(養分)状態を知ろう!」における講演内容の質問に回答します。

掲載日:2021.03.16

2021年2月27日(土)に開催いたしました家庭菜園講座「自宅の菜園土壌の健康(養分)状態を知ろう!」にて寄せられた質問について本学教員が回答いたしました。

 

【質問1】ECはテスター等で簡易に測れるか?その時の電極間隔距離や電流値は?

(回答)簡易に測定できないと考えます。理由をご説明します。長くなりますがご容赦ください。

(1)多くの経験や検証から、土壌のECは、「土壌(正確には風乾土として):純水=1(g):5(mL)」の割合で良く混ぜた懸濁液(泥水)に、EC計のセンサー部を入れて測定することが決められています。
(2) 研究室では10万円程度のEC計を使用しています。公開講座でご紹介したものはそれよりも安価な(2万円程度)のものでした(配付スライド資料23)。
(3)ご質問の「テスター等」は電圧や抵抗値を測定できる市販のテスターと理解しました。ECは電気の流れやすさであり、これは電気抵抗の逆数ですので、テスターで簡易的に測れるか?という発想は良くわかります。
(4)一方、電気伝導率(EC値)は「面積1 m2の2個の平面電極が距離1 mで対向している容器に電解質水溶液を満たして測定した電気抵抗の逆数」と「電気伝導率測定法通則」に定められています。市販のEC計はこれを自動化して測定しています。
(5)上記の泥水に、ある大きさの平面電極をある距離で入れて、テスターで電気抵抗を測定し、電極面積・距離も測定して、それらの値から電気伝導率(EC値)を計算で求めるということになるでしょうか。実際のところ、かなり繊細な技術、専門的知識、計算力が要求されるでしょう(私自身はできません)。そのため、現実的ではないと考えます。
(6) 以上から、多少の購入費用がかかりますが、市販のEC計を測定するのが近道で正確と考えます。すなわち、テスター等で簡易には測定できないと考えます。

回答者:農食環境学群循環農学類 教授 澤本 卓治

 

【質問2】最近、カルシウム、鉄分の投⼊等が話題になっていますが、必要でしょうか?

(回答)(玉虫色の回答かもしれませんが)場合によっては必要と思います。ただ、pHを適正範囲にして、適量の堆肥を継続的に与えることが基本と考えます。

(1)カルシウム(石灰)は作物に多く必要(多量要素)ですので、定期的に施肥することが必要です。
(2)公開講座でお伝えしましたように(配付スライド資料08の図)、pHが6~7の範囲であれば、土壌の微量要素の鉄(Fe)が根に供給されることが期待されます。一方、酸性に傾きすぎる(図の左側)と鉄は過剰になり(カルシウムは不足)、石灰等を施用しすぎてアルカリ性に傾きすぎる(図の右側)と鉄は不足(カルシウムは過剰)になります。そのため、pHを6~7くらいに維持することが基本です。
(3)なんらかの理由で根への鉄供給が不足している場合、市販の鉄分を含む肥料や葉面散布液といった資材の使用は有効と思われます。その場合、科学実験を楽しむ気持ちで試してみるのはいかがでしょうか。つまり、資材の有無以外の条件はすべて同じくして(ここポイントです)、資材を使用する区(処理区)と資材を使用しない区(対照区)を設けます。ふたつの区を比較観察して、資材の効果があるか/害はないかを判断します。
(4)家庭菜園では、土壌のカルシウム含量や微量な鉄含量を調べて施肥設計するのは難しいです。やはり、pHを適正範囲にして、適量の堆肥を継続的に与える(配付スライド資料21)ことで、鉄などの微量要素の過不足症状の軽減が期待されます(参考文献1)。
参考文献1:『おいしい野菜がたくさんできる! 土・肥料の作り方・使い方』,柴田一監修,原由紀子著,株式会社西東社,2014,p.82-83

回答者:農食環境学群循環農学類 教授 澤本 卓治

 

【質問3】防病対策に酢の噴霧は効果あるのか?

(回答)あると考えられます。

(1)「殺菌効果を持つことが明らかであった」として、農林水産省告示において特定農薬(特定防除資材)のひとつに定められています(参考文献1)。
(2)有機JASで使える農薬一覧にも「食酢」が含まれています(参考文献2)。
(3)噴霧する場合は作物にあった使用濃度や方法をよく調べた上で、科学実験を楽しむ気持ちで試してみるのはいかがでしょうか。つまり、噴霧の有無以外の条件はすべて同じくして(ここポイントです)、噴霧する区(処理区)と噴霧しない区(対照区)を設けます。ふたつの区を比較観察して、噴霧の効果があるか/害はないかを判断します。
参考文献1:農林水産省「特定防除資材(特定農薬)について」(2021年3月5日閲覧)https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_tokutei/
参考文献2:『今さら聞けない 農薬の話 きほんのき』,農文協編,2019,p.101

回答者:農食環境学群循環農学類 教授 澤本 卓治

 

【質問4】ダンボール堆肥を作っていますが、温度をあげるために使用済の天ぷら油を⼊れたりしています。園芸の番組では油はいけませんとのこと。どのように油の使い方を考えたらよいのでしょうか?

(回答)私自身の知識・勉強不足でよくわかりません。申し訳ありません。ただ、少し調べてみた結果、少量なら大きな問題にならないように感じます。
(1)「園芸の番組では油はいけません」とのことですが、専門的知識やご経験ある方のコメントと思われますので、根拠や理由があるものと拝察します。
(2)「天ぷら油 堆肥」で検索してみますと、廃棄物の削減や資源の有効利用といった視点から、米ぬかと天ぷら油を混ぜるなどで堆肥にするとよい等の記事が散見されます。
(3)一方、「生ごみ堆肥化 Q&A – 鳥取県」では、「Q6 コンポストにできないものは?」の回答として「天ぷら油、オリーブオイル(少量なら大丈夫です)」と書かれてあります(参考文献1)。また、「堆肥に利用できる材料」として、「分解するもの>油分の多いもの(天ぷらなど)少量なら使える」と紹介している書籍がありました(参考文献2)。
(4)上記の(3)のポイントは「少量なら」という点だと考えられます。天ぷら油は性状が独特であり、濃厚なためと思われます。さらに、天ぷら油ではありませんが、「ナタネ油かすを施用した直後に種をまいたり移植したりすると、発芽障害や活着障害を起こすことがあります。この原因は、水をかけることによってナタネ油かすからしみ出る有害物質と考えられています。」と記述している書籍もあります(参考文献3)。
(5)以上を総合すると、堆肥全体に対して少量の使用とすること、よく発酵・腐熟化させた堆肥とすること、種まきや移植の少なくても2~3週間前に土とよく混ぜておくこと、といった条件であれば、堆肥づくりに天ぷら油を使用されても大きな問題にならないように感じます。
参考文献1:生ごみ堆肥化 Q&A – 鳥取県(2021年3月6日閲覧)
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/908202/taihiQandA.pdf
参考文献2:『図解でわかる 土壌・肥料の基本とつくり方・使い方』,加藤哲郎監修,株式会社ナツメ社,2017,p.178
参考文献3:『もっと野菜がおいしくなる 家庭菜園の土づくり入門』,村上睦朗・藤田智,家の光協会,2010,p.57

回答者:農食環境学群循環農学類 教授 澤本 卓治

※回答中に記載のある配布スライド資料は、講座当日に配布したテキストを指します。終了後の配布、ダウンロードは行っておりませんのでご了承ください。

 

皆様のご参考になれば幸いです。今後とも本学の市民公開講座を何卒よろしくお願いいたします。