オーストラリア実習報告~Ballarat Veterinary Practice Equine Clinic~
掲載日:2024.05.01
獣医学類4年 村田 彩子(Ayako Murata)
獣医学類4年の村田彩子です。2月にオーストラリアのメルボルン近郊にあるBallarat Veterinary Practice Equine Clinicにて3週間の実習をしていました。報告書を書く機会をいただき僭越ながら、今回の実習について書いていこうかと思います。
〜実習準備〜
大学入学前から馬の獣医療に興味があり、特に競走馬への興味があること、卒業後は海外にてインターンシップを考えていること、新たな言語を習得する時間と気力はないことから、獣医学×競走馬×英語圏で実習場所を探しました。
インターネットで偶然見つけた実習先の病院。グーグルマップで場所を調べると、競馬場の真横にあることがわかり、立地に一目惚れをしました。先方の受け入れ条件は「最終学年、期間は2週間」でしたが、競馬場の真横で実習したい!という思いが消えず、断られる前提で「最終学年じゃないんだけど、受け入れてくれない?」との趣旨のメールを送りました。すると「ぜひ、来てほしい!貴女だと3週間滞在すればもっと楽しめると思うけどどう?」との返事が返ってきたのです。実習が決まったのは2023年の5月のこと。出発する日まで楽しみで仕方ありませんでした。
渡豪してまで学びに行くのだから、常に全力で何があってもしがみついてみせる。と心に誓い、2月3日、日本を飛び立ちました。
〜実習先のこと〜
実習を受け入れてくれた病院は、先述した通りに競馬場の真横に位置しています。周りにはたくさんの競走馬の厩舎や牧場があり、来院する馬の80%以上がサラブレッドでした。入院馬房が15個以上、全身麻酔対応の手術室が1部屋、馬の治療を行う枠場2箇所、レントゲン撮影や小さな処置ができる部屋が2箇所、シンチグラフィー用の部屋1部屋と検査前後の放射線が出ている馬を入れる馬房3箇所、MRIが1つと南半球で最も大きな馬の病院と謳っているだけの大規模な病院でした。
また、病院が宿泊先を手配してくれ、滞在中は近所のおばあちゃんの家に間借りしていました。Sweetという形容詞が似合う素敵な方で、「今日は実習どうだった?」と聞かれて「楽しかった!」と答え「よかったねえ」と喜んでもらうことが日課でした。
〜病院での生活〜
病院でのスケジュールは以下のものでした。
朝7:30に病院に行き、インターン生について入院馬のTPRや投薬などの管理をしたり、手術する馬に静脈カテーテルを入れたりします。その後は手術の見学、時には先生について往診に行ったりして過ごします。夕方4時頃に入院馬の管理を行い、何もなければ帰宅という感じでした。馬のハンドリングはもちろん、TPRや採血、薬の経口投与、血液検査など、私ができそうなことを見つけては経験させてくれたことがとても嬉しかったです。日によっては外科医の先生と症例検討をすることもあり、たくさんの知識を身につけることができました。
3週間で経験した症例は80件以上。ケラトーマや立位でのTieback、Kissing spine整復手術、潜在精巣腹腔鏡下摘出手術など、見たかった症例が次々と飛び込んできて、私の知的好奇心が満たされていく感覚を覚えました。1番記憶に残っている症例は滞在1週目に来院した創傷性角膜炎の馬です。12月に行ったAAEPの学会で実習した眼科キットを使ったこと、経過が良くなく、結膜フラップ手術をすることになったのですが、眼に小さな糸を縫いつける技術の緻密さに感動しました。
創傷性角膜炎の治療の様子
〜実際に滞在してみて〜
実習の最初の3日ほどは、脳内がなかなか英語モードにならず、病院の勝手もわからずで、インターン生の陰に隠れてオロオロしていました。1週目の後半には、アクセントの強い英語に慣れ、獣医師やナースたちと楽しく会話をしたり、治療の補助をテキパキとこなしたりすることができました。帰国が近づくと「貴女がいなくなったらこの病院回らなくなるよ!」と言ってもらえるほどには貢献できていたようで、とても幸せでした。家に帰ってからも、その日見たことの復習などを行い、とても忙しく、充実した日々を送っていました。1つの症例が終わり、手が空くと、病院内を歩いて他の先生が診療している症例を探して1症例でも多く見学させてもらっていました。休憩時間には、院内のキッチンで病院のスタッフと楽しく会話をして過ごしていました。外科医、往診医、インターン、ナースと職業、職歴関係なく、みんなで騒ぐときは騒ぎ、真面目な時はお互いを高め合う関係がとても楽しそうに思えました。
〜私のこれからのこと〜
今回の実習で、卒業後に1~2年間のインターンシップという教育制度があることをより魅力的に思うようになりました。5人程の同期たちと切磋琢磨しながら、学生と獣医師の中間のような立場で、経験を上げられる環境に身を置けたら伸び伸びと成長できる気がします。また、2人の若い馬の外科医の先生の活躍を見たことから、自分もEquine Surgeonのレジデントを目指してみようかと考えるようになりました。手術の技法だけでなく、画像診断や麻酔などの幅広い知識を学ぶ必要があるそうですが、馬の全てを知ることができて、勉強する過程で自分の知的好奇心を満たせるような気がします。
今後は夏休みにイギリスでの実習、学会見学を予定しており、そこでイギリスの馬医療の様子を見てくるつもりです。卒業後に海外でのインターンシップができるように、情報収集と英語力の向上に努めていきます。