タイ・カセサート大学単位互換プログラム報告書(12月分)

掲載日:2020.01.14

獣医学群獣医学類5年 天野真衣

先日帰国し、タイでの慌ただしい日々から一転、緩やかな冬休みを過ごしております。
今回は11月25日から12月20日に行った大動物臨床実習について報告致します。

大動物臨床実習は、1週目に大学内の実習農場(demonstrating farm)での乳牛実習、2週目に酪農家の往診による乳牛実習、3週目に馬実習、4週目にノンポーキャンパスに泊まりこみでの乳牛実習、という流れで行いました。私、梶谷さん、吉岡さんはタイ人の6年生10人の班に混ざって実習を行いました。
私はインフルエンザに罹患し、1週目の乳牛実習はほとんど参加できなかったため、報告は控えさせて頂きます。
2週目は先生方の往診に毎日同行し、乳牛の症例を学びました。色々な農家を訪れる度、牛の生産性、牛の管理方法や飼料のやり方など、何もかもが日本と異なり驚きました。また、それに関連して流行している疾病も日本と異なり、興味深く学ぶ事ができました。水曜日と金曜日には、班内で3つのグループに分かれ、興味を持った症例についてプレゼンテーションを行いました。私のグループは子宮捻転症と子牛の下痢症の症例について発表しました。グループ内で調べ物をしたり内容について話したりする過程で知識が定着するのが分かり、数人でプレゼンテーションを仕上げるという勉強方法は理にかなったものだなと感じました。プレゼンテーションの準備は長時間に及びましたが、タイ人の学生と打ち解け、非常に楽しい時間でした。
3週目に行った馬実習では、主に症例を観察したり、投薬方法について学んだりしました。症例の観察では、診療所の枠場に次々と馬が連れて来られ、先生方が診療する様子を観察しました。症例は飼育管理不足による蹄病が多かったです。投薬方法について学んだ際には、静脈注射、筋肉注射、採血、経口投与を役割分担し、指導を受けながら正しい投薬方法を学びました。また4日目には実際に乗馬クラブを訪れ、馬の飼育環境や馬の跛行診断について勉強しました。日本で飼育されている馬はほとんどがサラブレッドですが、タイではあらゆる種類の馬を見る事ができました。
4週目にはカンペンセンキャンパスから車で30分程度の場所にあるノンポーキャンパスに泊まりこみ、乳牛実習を行いました。毎日2,3人のグループに分かれ、先生方の往診に同行しました。何よりも衝撃的だったのは実際に口蹄疫に罹患した牛を見た事です(現在この病気は日本に存在しません)。また、口蹄疫に罹患した牛は殺処分する事なく育て続けるというタイでの現状にも衝撃を受けました(日本で口蹄疫が発生した場合は、罹患牛だけでなく近隣農家の牛も殺処分となります)。もう二度と見る事がないかもしれないという思いでじっくりとその症状を観察しました。他にも、難産の牛の分娩介助や直腸検査など、様々な体験をさせて頂き、記憶に残る実習となりました。

タイ・カセサート大学単位互換プログラム報告書(12月分)

農家の方から牛の症状について聞き込みをしている様子(2週目)

タイ・カセサート大学単位互換プログラム報告書(12月分)

馬の手術を見学(3週目)

タイ・カセサート大学単位互換プログラム報告書(12月分)

口蹄疫に罹患した牛(4週目)

私は「タイの獣医医療を知る」「カセサート大学の実践的な獣医学教育を体験する」「タイに生きる人々の考えや文化に触れる」という3点をこの留学の目標としていました。留学を終えた今、3ヵ月間を振り返ってみて、これらの大部分を達成できたと思います。1つ目の目標に関して、タイでは存在する感染症や動物を取り巻く環境が日本とは大きく異なり、症例の特色やそれに対する医療行為も異なる事を知りました。同時に、今後自分が日本で獣医師として活動していくには、日本の現状を理解しそれに対応する必要があると感じました。また2つ目の目標に関して、カセサート大学の獣医学教育はレベルが高いと感じました。学生に医療行為の大部分を任せたり、毎週プレゼンテーションをさせたりするなど、実践的かつ能動的な実習内容でした。この方法は経験に基づいた記憶や自信に繋がるので効果的だと思います。日本では昔ながらの受動的な講義に終始してしまう傾向にありますが、カセサート大学のように能動的な内容も今後カリキュラムに組み込まれたらいいなと思います。3つ目の目標については未だ模索中です。3ヵ月間私がタイで暮らして得た情報や感じた事は、タイという国を構成する一部に過ぎません。(これは1つ目、2つ目の目標に関しても同じ事が言えますが…)しかし、今後タイについてもっと知りたいという気持ちが芽生えました。タイ人の学生とはお互い母国語ではない英語での会話なので、細かいニュアンスの伝わらない大味なコミュニケーションになりがちでしたが、それでも何人か心を許せる友人を得ることができ、嬉しかったです。

精神的に変化した点も幾つかあります。まず、留学中にあらゆる人と長時間を共にし、自分と異なる考えやスタンスに常に触れ続けた事で、多様な価値観に対して寛容になったと思います。今までは、相手と自分の価値観を照らし合わせて白黒つけ、「黒」の場合は、相手と疎遠になるか自分が我慢し続ける、というのが私の定番でした。しかし、自分と違う価値観に対して「白」と「黒」の2択で判断せず、一旦相手を受け止めた上で自分はどう対応しようか考えられる様になりました。そしてその際に、相手の気持ちを慮りすぎるのでなく、自分の本当の気持ちを伝えることの大切さを学びました。また、これまでの私は、自分自身の嫌いな部分や苦手な事にばかり焦点を当てる、自己肯定感が低い人間でした。しかし留学中に次々と現れる課題や試練を乗り越えていく度、自分の良い部分や自分にできる事が自然と浮き彫りになり、少し自信がつきました。逆に、自分ではどうにもできない事も多々あり、多くの方々に何度も助けて頂きました。今まで人に頼ることは恥ずかしく申し訳ないという気持ちで生きてきましたが、異国で無力な自分をただ受け入れてくれる人達と接し、今後は気を張りすぎず自然体で人と接していこうと思いました。

ここには書ききれない多くの体験や思い出があり、生涯忘れることのない3か月間になりました。そして、この留学で得たものは私の今後の人生に影響を及ぼすと思います。両大学の先生方とスタッフの皆様、カセサート大学の友人達、共に留学した4人の仲間、留学を支援してくれた家族、その他この留学に関わって下さった全ての方々に感謝致します。本当にありがとうございました。